ジェイムス・ブレイクが新作『Assume Form』で到達した、動的で生命力に溢れたサウンドの正体

もともとジェイムス・ブレイクの音楽は、どこか静的なものだった。具体的に言うなら、感情を喚起させるし空間性もあるが、景色や映像だったりを動的に描くようなものではなかったような気がする。ビートは刻まれるし、歌はある。ただ、それはそこに留まっているような、“動かない”音楽だった。それは“動かなさ”であったり、“動けなさ”であったり、そのどちらでもあったりするのだろうが、その動かないサウンドがもたらす独特の質感や世界観が、ある種の悲痛さにも繋がっていたのだと思う。

しかし、『Assume Form』のサウンドは、冒頭のタイトル曲から動的だ。印象的なピアノのフレーズが繰り返され、それに導かれるように音が重なっていく。音がひとつずつ滑らかに連なりながら躍動する、いわば音楽のモーションみたいなものが聴こえてくる。ビートとピアノとストリングスが有機的に重なりながら、物語を先へ先へと進めるような音楽が鳴っている。そういった音の連なりはどこか映像的で、これまでのブレイクのイメージとは全く異なるものだ。

もちろん、トラヴィス・スコットとメトロ・ブーミンという、現代のシーンを象徴するラッパーとプロデューサーを迎え、トラップとアンビエントR&Bを融合させた「Mile High」も本作のトピックだろう。ここ数年のあいだにジェイ・Zやケンドリック・ラマーなどの作品に携わってきたブレイクの面目躍如ともいうべき楽曲だ。




だけど、もっと根本的な意味で『Assume Form』の変化を象徴するゲストは、スペイン人女性シンガーのロザリアなのではないかと僕は思っている。彼女はフラメンコのなかにトラップやR&Bのトレンドを織り込み、同時代的なサウンドに昇華させることで高い評価を得ているシンガーだ。

ロザリアの2018年作『El Mal Querer』はあまりにも異質な作品で、ほとんどリズムとコーラス、ストリングスだけで成り立っている曲も多い。そんな音数の少なさをうまく活かしながら、動的な旋律と歌メロを効果的に配置することで、フラメンコならではの濃厚なエモーションはそのままに、サウンド全体を軽やかに響かせている。音数の少なさという共通項はあるものの、ロザリアの動的な歌声は、これまでのブレイクの音楽性にはおそらくフィットしなかっただろう。そんな彼女の歌が、ここでは完璧にハマっている。

ロザリアを迎えた「Barefoot in the Park」では、フラメンコ特有のリズムパターンを、異なる音色を組み合わせた複雑なリズムの中に織り込んでいるようにも聴こえる。打ち鳴らされるビートからフラメンコの音像がうっすらと浮かび上がり、そのリズムがループするうわものと絶妙に組み合わさる。こんなふうに、大量の音数で空間を埋め尽くし、そのなかに聴かせたいモチーフを忍ばせるような手法も、徹底的に引き算的に音楽を作ってきたこれまでのブレイクからは考えられないものだ。



ロザリア『El Mal Querer』収録曲「Malamente (Cap.1: Augurio) 」

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