Spotifyの経営内部に切り込んだ、『解体新書』の著者が明かすストリーミング企業の裏側

─でもなぜSpotifyは、公明性と透明性を謳っていながら、みなさんとデータを共有したがらなかったんでしょう?

エリクソン:Spotifyはこれまでエンジニアとか、IT関連分野の人々とコラボレーションしたことはありますが、人類学や社会科学の学者とのコラボレーションの経験はありませんでした。この手の人々は元来批判的な目を持っていますから、プラットフォームやサービス、アルゴリズムの向上は眼中にありません。彼らの目的は、現在の社会における企業の役割とか、音楽やカルチャーの消費に対する彼らの影響力について疑問を投げかけることなんです。

スニカーズ:僕たち5人は人類学の研究者ですから、おそらくSpotifyは、我々がいろいろ知っていると考えたのでしょうね。実際は、ほんの表面をかすった程度なのですが。

エリクソン:ある程度の秘密主義が、Spotifyのビジネスのカギですからね。さもなければ、ユーザーは容易に彼らのアルゴリズムの裏をかいて、騙すことすらできてしまいます。ただ、私たちの研究はたまたまSpotifyが株式市場に上場したタイミングでした。どんな企業にとっても、神経をとがらせる時期ですよね。この本はSpotifyのビジネスを破滅させるとか、彼らの行いを阻止しようというわけではありません。むしろ、企業としてのSpotifyの仮面をはぎとって、企業の在り方を見つめなおそうというものです。これまで巷で言われてきたことを再検証する、というのがもともとの発想でした。今日の音楽業界でのSpotifyの行動を見直す。そのスタート地点として「teardown(解体)」という言葉を使ったのです。

─ここまでの反響はいかがですか?

スニカーズ:Spotifyからの反応に関してはわかりませんが、スウェーデンではかなり(本の執筆中から)この件に関して議論が持ち上がっていました。Spotifyはスウェーデン・リサーチ・カウンシルに接触してきて、僕たちへの助成金を打ち切れと脅してきたんです。そのことで、マスコミから少々叩かれていましたよ。リサーチ・カウンシルの主任弁護士も、研究グループに脅しをかけた企業なんていままで聞いたこともない、と言っていました。スウェーデンは小さな国ですけれど、こうした研究助成期間はかなり巨額な資金を扱っているんです。

─すでに、次の研究の計画は立てていますか? どんなものになる予定でしょう?

エリクソン:今後も引き続き研究すべきだと思っているのは、私たちの研究によって浮かび上がってきた合法性の問題です。巨大IT企業の実態を研究する学者たちのためにも、合法性の意味をテーマに本を書くべきだと思っています。こうした企業はしばしば自分たちのビジネスを完全にブラックボックス化して、自社のコンテンツの格付け基準や、ユーザー分析方法を公にしたがりませんからね。

スニカーズ:アルゴリズムを監査するという分野はもっと注目されるべきだと思います。YouTubeのレコメンド(おすすめ)機能のアルゴリズムがどんなものか、ちゃんと知っている人は誰もいません。それを理解するためには、サービス利用規約に違反するような調査もやむをえません。こういった学術研究や報道活動はそうあるべきだと僕たちは信じています。そうなれば、きっと大きな波紋を呼ぶでしょうね。

Translated by Akiko Kato

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