国境とコンプレックスを超越、CHAIのパンク精神が示すもの

CHAI(Photo by Masato Moriyama)

先週リリースされたCHAIの2ndアルバム『PUNK』。その爆発力のエネルギー源となり、バンドにとっても大きな転機となった2018年を振り返るインタビュー記事をお届けする。

※この記事は現在発売中の「Rolling Stone Japan vol.05」に掲載されたものです。

海外で本格的に活動を開始した2018年

ーまず、直近のことからお話を伺いたいんですけど。2018年、CHAIは本当に大忙しで……いろんなトピックスがあると思うんですが、何よりも海外での活動を本格化させたというところが特に大きな変化だったんじゃないかと。

ユナ:そうだね。3月には『SXSW』に出演したし、9月にはニューヨークとロサンゼルスで初めてCHAI主催のライブをやって。10月にはずっと大好きだったスーパーオーガニズム(ネットの海から生まれた8人組の「超個体」バンド。18歳の日本人・Oronoがフロント・ウーマンを務める。現在、ロンドンを拠点に活動中)のツアーにも参加した。

ユウキ:ロサンゼルスのライブにはDEVOが来てくれたんだよ。ただただ泣いたよね。「アイラブユー」って伝えられたのがうれしかった。

マナ:「君たち、見た目はポップなのに演奏はすごいね」って言ってもらえて、本当に感動した。

ーアメリカとイギリスのお客さんでは何か違いとか感じました?

ユナ:国民性なのか、何なのかわからないけど、アメリカの人たちは演奏中も「ウェーイ!」って騒いでる、みんながイメージする外国のオーディエンスって感じだった。イギリスは曲を「うんうん」って理解してくれた上で、終わった後、「わー」って気持ちを表現してくれる感じ。

カナ:海外のお客さんから直接感想とか言ってもらえると「へー、そんなこと思うんだ」とか自信になるよね。スーパーオーガニズムとのライブでは、あるお客さんに「始まって5秒で、世界がハッピーに見えた」って感想をもらえて……あれは、うれしかったな。

ユウキ:幸せっていうものをこんなにもダイレクトに感じさせてくれる音楽はないって言われたんだよね。すごい褒め言葉だよね!

マナ:日本でやっている洋楽の替え歌で自己紹介をするのもやったんだけど、やっぱり海外だから余計にウケがよくて(笑)。みんな替え歌じゃなくて、原曲の歌詞で大合唱してた(笑)。

ー僕もスーパーオーガニズムとのツアーには後半6公演に密着取材させていただいたんですが、「NEOかわいい」っていうCHAIのコンセプトを英語で丁寧にMCをされているパートで歓声が起きていて「CHAIは本当にグローバルなバンドなんだな」と、素直に感動しました。ご自身たちとしては「NEOかわいい」が伝わっているという実感はありましたか?

マナ:発音を練習したり、ちょこちょこ英語の表現を変えたりしてMCは相当頑張って改良したんだよね。30分のセットが終わる頃にはオーディエンスにもきちんと伝わってたんじゃないかな。

ユウキ:私たちが自信たっぷりに演奏したり、MCしたりしてたから、言葉が足りなくてもある程度は言いたいことがわかってもらえたんじゃないかと思う。現地の人たちと話していても、ポジティヴなヴァイヴスがあるって言われることが多かったし。さっき言ってくれたように、私たちが掲げているコンセプトっていうのは世界共通なんだなって、知識だけじゃなくて実体験で知れたのはよかったよね。

ー海外では文化の違いに苦労することはありませんでしたか?

マナ:いや、それが特になかったんだよね。ツアーの日程はハードだったけど、おいしいものもたくさん食べたし。全部、いい経験だった。

ユナ:グラスゴーで食べたシェル・フィッシュ(ホタテ)、最高だったよね。イギリスでおいしいシーフードが食べられるとは思ってなかった!

ユウキ:私たちのイギリスのお気に入りのレストランは「Nando’s」。おいしいチキンが食べられるの。手羽先もあるよ。いろんな部位やソースを選べるの!

カナ:あー、「Nando’s」行きたいなぁ~。お腹空いてきちゃうね……(笑)。

ー11月に帰国してすぐに横浜アリーナでイベント『バズリズムライブ 2018』に出演されたじゃないですか? それまで2週間ぐらい500人~最大でも2000人程度の観客の前でやっていたのが、いきなり1万2000人の日本人のオーディエンスの前に出ることになって。ギャップみたいなものを感じることはなかったんですか?

カナ:正直、私は一瞬、抜け殻になったね。すごく楽しかったから。でも、横浜アリーナでのライブはその海外で受けた刺激をものすごくストレートに表現できたと思うんだ。4人の気持ちが一つになってすごくいいライブができたと思う。

ユウキ:海外でのライブは、やっぱりまだまだアウェイだから。だからこそどんな状況でも出し切るってことや、負けないっていう強い気持ちを得ることができたんだよね。人数や場所は違っても、海外でやったときと同じ強い気持ちでできた。

ユナ:私はこのメンバーで本当によかったなって思ったな。私はドラムだからさ、みんなの背中を見ながら、お客さんの顔も見えてるのね。1万2000人に向き合う3人の姿を見ながら「なんていい景色なんだろう……」と思って。日本であれ、外国であれ、この4人ならどこでもやっていけるって確信が持てたんだよね。「場所なんて関係ない、この4人がいれば無敵だ!」って、勝手にライブ中にジーンときちゃってた。

ユウキ:もう、家族みたいな感じだよね。考えられないもん、他の人とやること。

ー一旦、海外に行って、自分たちが本当にやりたいこととか目指すところにまた立ち戻ってきた感じなんですかね。2018年はTVや雑誌、ラジオなどのメディアでもCHAIのことを見る機会が本当にたくさんあって。やっぱり、2018年はそういう忙しい状況の中で少しだけ自分たちの現在地を見失いかけていた時期もあったんでしょうか?

カナ:ありがたいことに機会に恵まれて、いろんなところに取り上げてもらうことも増えたけど……やっぱり、言葉だけが先行しちゃってるなって思うことも多くて。「NEOかわいい」というコンセプトだけが一人歩きして、「私たちブスだけど頑張ってます!」みたいな音楽と全然関係のないことを書かれることもあったりしたから。

マナ:私たちは、そもそもミュージシャンなんだよ!っていうことを「We Are Musician」という曲では表現したつもりだったんだけどね。うわべだけを見られて本質を理解してもらえていないなっていうのはすごく感じてた。

ユウキ:いい音楽だから、言いたいこと=言葉が響くんだっていう、自分たちが作っているものに対する自信があるから、そこを抜きにしていろいろ言われちゃうと「うーん」っていうもどかしさを感じることも増えたかな。

マナ:そうだね。スーパーオーガニズムとツアーしたことで、そのもどかしさからやっと解き放たれた気がしたんだよね。彼らの自由さや、やりたいことを誰に何と言われようとやる勇気を目の当たりにして、自分たちがバンドを始めた頃にやりたかったことを思い出すことができた。だから、私はあのタイミングで日本に帰ってこられてよかったなって思ってる。横浜アリーナでライブをして、自分たちの現在地がきちんとわかった。私たち4人がやってることは間違っていないけれど、こんな感じの受け止められ方をしてるんだ……って冷静に分析することができたんだよね。ふわふわと浮き足立ったような気持ちでずっといたけれど、やっと地に足がついた気がしたね。

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