ミツキの今を雄弁に物語る「ダンス」 異形のパフォーマンスを繰り広げた来日公演

来日公演を実施したミツキ(Photo by Kazumichi Kokei)

さる2月12日、ミツキの約2年ぶりとなるジャパン・ツアーの東京公演が渋谷のWWW Xにて開催された。ミツキが日本でライブを行うのは今回が3度目。2016年の初来日はアコースティック・ギターでのソロの弾き語り、そして前回はバンド・セットと、これまで2度の公演では異なる内容のステージを見せてくれた彼女。その意味で今回のライブも、ファンにとっては初めて目の当たりにするミツキのパフォーマンスとなったのではないだろうか。
 
客電が落ちてカエターノ・ヴェローゾの「Cucurrucucu Paloma」が流れるなか、バンド・メンバーを連れて登場したミツキ。しかし、オープニングの「Remember My Name」を後ろ手に組み歌い始めたミツキは、結論から言うと、本編最後の「My Body’s Made of Crushed Little Stars」でエレキ・ギターを弾くまで一度も楽器を手にすることがなかった。代わりに今回、彼女のパフォーマンスにおいて重要な役割を担い、そしてファンを魅了したのが、その自由になった手足を使って表現される「ダンス」。それは文字どおりの踊りであったり、あるいはジェスチャーとか仕草といったものまで含んだ身体表現を織り交ぜながら、自身の歌やバンドによる演奏と共に「演じ」られていく。そうしたシアトリカルでコンセプチュアルな趣向が楽曲のドラマ性やテンションを高めることで、いわゆるミュージシャンによるライブ・パフォーマンスとは異質のものへとこの日のステージを作り上げていた。

それはたとえば、曲のムードに合わせて揺れたり簡単なポーズをつけたりといったものや、唐突に始まる(バレエの)バリエーションのようなアクションだったりと、ステージで終始、身体を動かし続けていたミツキ。マイクスタンドに手を這わせて艶かしく歌う 「First Love / Late Spring」とは一転、「Francis Forever」では一心不乱な様子で舞台を何度も往復し、かたや 「Once More To See You」では、椅子に腰掛けて挑発的に足を上げたり組み替えてみせたりする。「Why Didn’t You Stop Me?」では、幾何学的なパターンを繰り返すコンテンポラリー・ダンスを披露。コミカルだったりシュールだったり、あるいは強迫観念的だったり。つまり「ダンス」がトリガーとなることで楽曲が表情を帯び、ステージが進むにつれてショウ全体が熱気に包まれていく。ちなみに、昨年リリースされた最新アルバム『Be the Cowboy』は、2分台半ばや1分台の楽曲が占める構成が特徴的な作品だったが、実際に新曲を中心に組まれた今回のセットにおいて、そうした展開の速さは楽曲ごとに変わる「ダンス」のコントラストを際立てるという意味でも効果的だったように思う。




Photos by Kazumichi Kokei

ドラム・ビートにのせて器械体操のように踊るコンテンポラリー・ダンスで始まった 「I Will」から、フロアのコーラスが迎えたディスコティックな「Nobody」へ。四股を踏むように大きな動作で力強く歌い上げた「Your Best American Girl」もエモーショナルで素晴らしかったが、壮麗な「Geyser」の直後に披露された「Happy」での、感情を解き放つようにバサバサと激しく舞い踊った姿が強烈に目に焼き付いている。近年、いわゆる非ダンス系のアーティストがパフォーマンスやステージングにダンス的な演出を取り入れるという例は少なくない。たとえばこの日の前日、グラミー賞の授賞式でデュア・リパとの刺激的なデュエットを披露したセイント・ヴィンセントなんかもそのひとりと言えるが、そうしたことをミツキの一挙手一投足は見ていて頭をよぎらせたことも事実。ともあれ、ギター・ロック・バンドのフロントウーマン然としていた頃とはまるで異なるカタルシスとスペクタクルに、ただただ圧倒される場面の連続だった。
 
しめやかな「Two Slow Dancers」に続いて、アンコールの最後に用意されたのは、ミツキが大学のときに作ったという、2ndアルバム『Retired From Sad, New Career In Business』(2013年)収録の「Goodbye, My Danish Sweetheart」。電子音とギターのユーモラスなループを下敷きに、メロディをたどりながら溌剌とフロウするミツキの歌声が麗しい。この日、3、4回ほどあった短いMCのなかで、「わたし、喋りが弱いんで」と話して笑いを誘っていたミツキ。歌にのせて、時に無言のまま無我夢中に踊り続けていた彼女の「ダンス」は、しかし、ミツキというアーティストの今を何よりも雄弁に物語っていたように思う。今年の夏には、初出演となるフジロックでのステージが控えている。もう一度、いや、また何度でも見たくなるミツキのライブだった。

※関連記事:NYインディ・ロックの新進気鋭アーティスト、Mitskiとは


Photo by Kazumichi Kokei



FUJI ROCK FESTIVAL’19
期間:2019年7月26日(金)27日(土)28日(日)
会場:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
オフィシャルサイト:
http://www.fujirockfestival.com

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