陳暁夏代が見た88risingの世界観「誰かが願った理想郷は、時にたくさんの人を救う」

2019年1月10日、Zepp Tokyoで来日ショーケースを開催した88rising(Photo by Yusuke Uchida)



88risingがYouTube動画をアップロードした2016年から3年。当初は一部のコアな音楽ファンにしか届いていなかったレーベルの名は今や音楽シーンのみならず、経済誌やファッション誌など日本のあらゆるメディアに取り上げられる存在となった。

もちろん忘れてはならないのは彼らが音楽シーンに残した功績である。言語が細分化され分断されていたアジアの音楽が88risingという場所を通じ一つになった。日本人が中国語を聴き、アメリカ人が韓国語を聴き、タイ人が英語を聴き、共に歌う。それは88risingの存在意義を最大限に体現していた。

88risingを愛するもう一つの理由は、音楽の海外進出のフォーマットを変えたことだ。彼らは皆「母国語」で歌っている。「母国語」でいいのだ。それまでの音楽シーンでは、K-POPグループの海外戦略に顕著だが、国別にセンターチェンジや言語変換などの施策を徹底していた。結果、オリジナルの韓国語ヴァージョンが流通している事実はあったが、その国に合わせないといけないという感覚はあった。しかし88rising以降、その傾向ははっきりと変わってきたように思う。

「音楽は言葉も国も超える」。よく言われているこのセリフが現実になった瞬間だった。

88risingはViceの音楽マガジンを担当していたショーン・ミヤシロ&ジェイソン・マーにより2015年に設立された組織である。彼らは当初からアジアの新進気鋭のアーティストを発掘していた。その頃から方向性として「クールな組織になること、アジア移民だけでなく全ての移民のために」など純粋な“音楽レーベル”からは逸脱した意志を感じていた。

2016年夏にYouTubeに動画を続々発表し、クールなものを求めるコアな音楽フリークの間で瞬く間に話題になった。2017年に88rising初のワールドツアーが発表された時、開催国に日本が含まれていないことに嘆いていたファンの声も今や懐かしい。今日の彼らの存在感はもはや言うまでもないだろう。

所属するアーティストはインドネシア人、アメリカ人、日本人、中国人、韓国人、黒人、生まれも育ちも国籍もバラバラだ。彼らは国を超え、言語を超え、同じ仲間として音楽と共に生きている。

それは、カリフォルニアで育ち、日本人と韓国人の親を持つショーン・ミヤシロ、そして同じくカリフォルニアで育った中国人の親を持つジェイソン・マーら創業メンバー、彼ら自身の理想郷でもあったのかもしれない。

筆者もそういった家庭背景に生まれ育った。誰かが強く願った理想郷は、時にたくさんの人を救うと強く思う。

余談だが、「88rising」という名前は、中国で縁起物として扱われる88という数字から当初は中国系のレーベルだと思っていた(8は中国で商売繁盛を意味する)。

今までアジア人歌手は欧米でトレンドを飛ばす曲が単体ではあったが、どれも一発屋に思われがちだった。そんななか、88risingの成功はどうやって作られたのか。その巧みなプロモーションにもぜひ注目していただきたい。

そもそも、彼らは新しいレーベル。そして所属アーティストは本国でさえも新人や正式デビュー前の演者を集めている。普通にスタートしても拡散はしないだろう。そして舐められるに決まってる。

そこで決め手になったのがYouTubeでよく見かける「リアクション動画」だ。アーティストMVの公開とほぼ同時に、USのメインストリームで活躍する有名なラッパーたちに彼らの動画を見せる企画を公開した。









この作戦は非常に成功した。プロが認めるものを、素人が認めないわけにはいかない。こうしていらぬノイズを頭から削除することに成功した。

他にも巧みな資金調達やマーケティングは実に興味深く展開しているが、皆さんも興味を持ったら調べてみてほしい。

・88risingに関する一番いいドキュメンタリー


動画内でハイヤーが言ってたセリフが印象的だった。

「俺たちは俺たちが一番クールだと思ってる。だから俺らを好きな奴らは自分のことを一番クールだと思ってる」

そう思う。


陳暁夏代(ちんしょう なつよ) 
日本と中国のバックグラウンドをもち、中国の若者事情やエンタメ情報の発信にとどまらず、政治・社会問題をシニカルかつポップに批評。2018年春にTwitterを本格開始し、プロフィール欄に「ラッパー」とのみ書かれた謎めいた投稿スタイルながら、フォロワーはすでに2万人を超えている。現在は、中国戦略マーケターとして日中双方の企業のマーケティングやブランディング支援を行う個人事務所DIGDOG (www.digdog.online)の代表を務めるほか、2019年1月にはコンテンツスタジオCHOCOLATE(http://chocolate-inc.com/)の執行役員に就任したことが発表され話題となった。
twitter: なつよ @chinshonatsuyo



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