実験と暴走が生んだ怪物バンド、トレイル・オブ・デッドから振り返るUSインディー黄金期

―先ほどの話にもあったように、天井さんは『Source Tags & Codes』が出た頃に電話インタビューされたんですよね。何か印象的だったことはありますか?

天井:やっぱり放言癖というか、ビッグマウスだなとは思いました(笑)。でも、その発言のスケール感が音楽にうまくハマってたんですよね。マヤ文明の話とかもそうですけど、すべてのカルチャーを一纏めにして、全人類だの地球だのって言い出しちゃう陰謀論者みたいなイカれた感じが音楽の世界観に合っていて、いいキャラクターだったと思うんですよね。正直、ルックスさえよければマーズ・ヴォルタくらい売れてた気はするんですよ。セドリックやオマーくらいカッコ良かったら売れないわけがない、みたいなことは当時から言われてました(笑)。

―そこに大きな差が(笑)。マーズ・ヴォルタは2003年に1stアルバム『De-Loused in the Comatorium』を発表していますけど、サウンド面はTODとも近いですよね。

天井:ATDIはガリガリに削ぎ落としたソリッドなハードコア・パンクだったけど、マーズ・ヴォルタはそれこそプログレとかダブの要素もあって。ポストプロダクションにこだわって編集もやったり。TODはそれに先駆けていたと思うんですよね。


マーズ・ヴォルタ『De-Loused in the Comatorium』収録曲「Inertiatic ESP」

―マーズ・ヴォルタが2005年の『Frances the Mute』で全米4位まで登り詰めたのと対照的に、TODは2005年の『Worlds Apart』が全米92位、翌年の『So Divided』が全米190位とまったく奮いませんでした。

天井:ちょうどインディー勢がビルボードでも結果を出してた時期ですよね。デス・キャブ・フォー・キューティーやシンズのような、TODの同世代がメインストリームのチャートに入って商業的成功を収めていくなかで、メジャーに行ったはずのTODが数字上での結果を出せなかったのは悲しかった。

―同じインタースコープに所属していたQOTSA、ヤー・ヤー・ヤーズ、ジミー・イート・ザ・ワールドも順当にセールスを伸ばしているほか、古巣のマージでは2007年にアーケイド・ファイアが全米2位、スプーンが全米10位を達成しています。

天井:モデスト・マウスが全米1位になったのも2007年ですよね。この頃になると、コアな人たちはブルックリン周りに注目していた印象です。

―2007年はアニマル・コレクティヴの『Strawberry Jam』が全米チャート入りしたり、ブルックリンのシーンが最盛期を迎えつつあった時期でもありますよね。一方で、ポスト・ハードコア周辺ではQ and Not Uなど勢いのあったバンドが失速したり、ポストロックもだいぶ落ち着いてしまった。

天井:ロカストがいた、ゴールド・スタンダード・ラボラトリーズ周りの動きは面白かったですけどね。ただ、同時期にハードコアから派生した人たちで言えば、LCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーや、!!!のニック・オファーのように、ダンスとかクラブ・ミュージックの方に向かう流れもありましたね。彼らもポニーやヤー・モス(The Yah Mos)といったバンドで90年代半ばくらいから活動しているし、世代的にもTODとは近い存在のはずです。


LCDサウンドシステムの2ndアルバム『Sound of Silver』も2007年のリリース。同年の年間ベストを席巻した。

―モデスト・マウスもダンスっぽいアプローチを取り入れてましたしね。そうやって時代に対応する動きもあるなか、TODは独自の世界観をより濃密にすることでカルト・バンド化していった。

天井:『World Apart』と『So Divided』に関しては、『Source Tags & Cords』のいい部分を悪い方向に煮詰めたというか、お金をかけていくうちにこじらせてしまった感があるというか。魅力的な作品ではあるんですけど、その過剰さの受け皿となるような状況がなかった気はしますよね。ただ、その超独自路線を極めた時期を経て、メジャーから離れた2009年に発表した『The Century of Self』はNYで録っていて。イェーセイヤーのメンバーが参加していたり、クリス・コーディがプロデュースを手がけていたりしているんです。実際、本人たちは「ダーティー・プロジェクターズにも参加してほしかった」とも話していて。

―ブルックリン界隈にも目配せしていたわけですね。

天井:2012年に僕がTODに行ったインタビューの見出しが「影響されていない音楽があるとすれば、それは“今のロック”だと思う」ってやつなんですけど、そうは言いながら周りにも目を向けていたように思うんですよね。


『The Century of Self』のリード曲「Isis Unveiled」

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