実験と暴走が生んだ怪物バンド、トレイル・オブ・デッドから振り返るUSインディー黄金期

―そういえば、天井さんが執筆した『Madonna』(2013年リイシューの日本盤)のライナーノーツを読んでびっくりしたんですよ。『Madonna』のジャケットにも明らかなように、TODは独特な宗教趣味を押し出しているじゃないですか。

天井:そうですね。

―なのに、「少年時代に地元の教会の聖歌隊に所属していた」「考古学や人類学を研究し、バンド名はマヤ文明に伝わる詠唱儀式からとられた」という逸話が実はウソだったという(笑)。

天井:そうそう、ホラだったんですよね。僕も又聞きですけど、メジャー最後のアルバムとなった『So Divided』(2006年)を出した頃にカミングアウトしたらしくて。「ライブ前に牛の生き血を飲んでいた」っていうのもたぶんウソです。

―もったいぶったバンド名とアートワークで、どれだけヤバい連中なんだろうと思っていたのに。

天井:あの音楽性と特殊なエピソードで、「一体どんなバンドなんだ!?」ってリスナーは想像力を膨らませていたわけじゃないですか。それが全部ひっくり返されてしまって(笑)。


『Madonna』と『Source Tags & Codes』のアートワークを使った、3月の来日公演のフライヤー

―そんな盛りまくりのエピソードも信じ込ませてしまうくらい、いろんな音楽的素養を感じさせるバンドですよね。

天井:さっきも話した通りテキサスのシーンから出てきてるわけだけど、そもそもの発端がオリンピアにあったから(※)、ライオット・ガールに対してもシンパシーを抱いていて――実際、メンバーのひとりはTODを始める前にマキルテオ・フェアリーズというクィア・コア・バンドも組んでいたし。オリンピア繋がりで言えば『Source Tags & Codes』収録の「Homage」でアンワウンドについて歌っているように、ポスト・ハードコアからポストロックに至る流れがバックボーンにあるんじゃないですかね。

※TODの中心人物であるコンラッド・キーリーとジェイソン・リースは、オリンピアで短命のバンドをいくつか率いて活動していた。


アンワウンドの1996年作『Repetition』収録曲「Corpse Pose」。90年代のキル・ロック・スターズを牽引した彼らは、作を重ねながらポスト・ハードコアとマス・ロック、ポストメタルを繋ぐような作風へと移行した。

―リリース20周年を迎えた『Madonna』ですが、天井さんのなかでの位置付けは?

天井:80年代にブラスト・ファーストやホームステッドが拠点を担ったUK、USのアンダーグラウンド〜オルタナの流れを踏まえつつ、ポストロックとか現行のシーンとも繋がりがあることを示したアルバムだと思うし、サウンド面では真っ当なギターロック・バンドらしく、ラウド&クワイエットの緩急がありますよね。これはモグワイとかにも通じる部分だと思うけど、メロディアスなボーカル・パートと、アグレッシブなノイズとかジャムとのコントラストがありながら、渾然一体としているところもある。

―そうですね。

天井:しかも3分くらいから7分台の曲まで、振れ幅を広く聴かせられるっていう。演奏力もしっかりとあるし、耳から入ってくるカタルシスっていうのが大きいと思いますね。

―改めて聴いても、ギターの鳴りが素晴らしいですよね。天井さんも上掲のライナーで触れていたように、後年のクラウド・ナッシングスやメッツにも通じるものがあるというか。

天井:その辺のバンドは正統な遺伝子というか、系譜を継いでる感じがしますよね。当時のTODはまだ4、5人でやってたので、そんなにごちゃごちゃしたプロダクションではなかったと思うんですよ。それであそこまでの音が出せるのは凄いと思います。


クラウド・ナッシングスの2012年作『Attack on Memory』収録曲「Stay Useless」

―後追いの感覚でいうと、このアルバムがマージからリリースされたのも不思議な気がして。TODがスーパーチャンクと一緒にツアーしていたのが契約のきっかけらしいですけど、当時のマージ勢に比べるとTODの音は明らかに異質ですよね。

天井:今思うと、スプーン繋がりじゃないかなと思うんですよ。エンジニア/プロデューサーのマイク・マッカーシーという人物が、スプーンの初期から最近のアルバムまで関わっていて。それと並行して、TODも1stアルバムからずっと手がけてるんです。スプーンの『They Want My Soul』(2014年)も、ルーツ音楽やいわゆるロック・マナーに乗っ取ったバンド演奏と、ポストプロダクションやエレクトロニックなテクスチャーの融合みたいな部分がポイントだったじゃないですか。その辺は『Source Tags & Codes』とも共通する部分があるし、青写真を重ね合わせることができる部分が多いと思います。


スーパーチャンクの1999年作『Come Pick Me Up』収録曲「Hello Hawk」。ジム・オルークの共同プロデュースも話題に。


スプーン『They Want My Soul』収録曲「Let Me Be Mine」

―このあとTODは2001年のサマーソニックで初来日を果たすわけですが、プライマル・スクリームの一員として同フェスに出演していたケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)が「Mistakes & Regrets」を絶賛したというエピソードがnoiseyの記事に載っていました。

天井:『XTRMNTR』(2000年)から『Evil Heat』(2002年)の頃って、プライマル自身が一番尖ってた時期ですよね。ケヴィン・シールズもそうだし、デヴィッド・ホルムズやDFAのティム・ゴールズワージーもいて、まさに超最強のメンツだった。そういうモードのなかで、TODがケヴィン・シールズの目に留まって絶賛されるのはよくわかる気がしますね。


『Madonna』に収録されたTODを代表する名曲「Mistakes & Regrets」

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