マッスル坂井が両国国技館で見せる「プロレスの向こう側」

マッスル坂井(Photo by Takuro Ueno)

プロレスに、演劇やお笑いの要素を大胆かつ積極的に融合させることにより、マニアックな支持を獲得した伝説的興行「マッスル」が約10年のブランクを経て再始動。収容人数1万人超の大会場である東京・両国国技館で「マッスルマニア2019 in 両国~俺たちのセカンドキャリア~」を開催する。その中心人物が、現在スーパー・ササダンゴ・マシンとしても活躍するマッスル坂井だ。

ストロングスタイルやデスマッチ、そしてコミカルマッチなど、時代とともに驚くほどの進化と分岐を重ねてきたプロレスという競技。ファンはもちろん、おそらくリング上で闘う選手自身も「プロレスとは何か?」という問いを常に繰り返しているように思える。その霧中にいながら“プロレスの向こう側”を目指すことで「プロレスとは何か?」という問いの答えを探している、かのように見えた当時の坂井。敢えて今、マッスルを再始動させた目的は、どこにあるのだろうか。プロレス界最大の“謎”とも呼べるマッスルとは何か、そして“その向こう側”にあるプロレスとは何か、について尋ねてみた。

プロレスの魅力は“ドキュメンタリー”であること

─実は、坂井選手が手掛ける「マッスル」について、一般向けにどうやって説明すれば良いのか、いまだに自分の中で整理がついていなくって。基本的にプロレス興行だということはわかっているんですが、たとえば新日本や全日本のような、いわゆるメジャー団体の試合で行われている“プロレス”と同様に語ることができるのかといえば、そうとも断言できなくて。

ですよね。私も“横一列”で見てもらっては困りますから。怒ってはいませんけど!

─今回の興行にも参戦する、かつてのレギュラーメンバーである酒井一圭氏(現・純烈のリーダー)は「マッスルとは(一種の)舞台である」と発言していますよね。実際、鶴見亜門という“演出家”が参加していますし、過去に開催された興行はプロレスというジャンルの枠を超え、演劇やお笑いのファンからも熱い支持を受けていました。そこで、あらためて坂井選手本人から「マッスルとは何か?」について聞いてみたいと思ったんです。

あのですね。かつてジャイアント馬場さんが「リング上で起こる出来事はすべてプロレスである」という言葉を遺したように、やはりマッスルも“プロレス”なんですよ。新日本さんや全日本さんのように、格闘を前面に押し出すアスリート的なプロレスもあれば、DDTのように格闘にエンターテインメント性を加味したプロレスもある。その中で、マッスルは特にプロレスのエンターテインメント性を追求しているんです。いわゆるカタカナ4文字の「エンタメ」ではなく、エンターテインメントを。プロレスというジャンルを通じて、エンターテインメントの新しい価値観を提示したい、といいますか。

─プロレスのエンターテインメント的な側面にフォーカスした興行、という説明は一般向けとして非常にわかりやすいですね。レスラーの中には「喜怒哀楽すべてを表現できるのがプロレスならではの魅力」と語る選手も多いですし。

そこに関しては、正直ホントにそうなのかな?と思いますけどね。だって、喜怒哀楽を表現するだけなら映画にだってできるわけじゃないですか。むしろ、その点においては映画のほうが優れていると思いますし。

─エンターテインメントとして、それこそ“横一列”に見れば、そうかもしれませんよね。だとしたら、プロレスでしか表現できないエンターテインメントって、いったい何なのでしょう?

ひとつあるとしたら、そのキーワードは「リアリティ」だと思うんです。たとえば同じエンターテインメントでも、芝居やコンサートって、再現性があるじゃないですか。歌舞伎なら同じ演目を何日間、何年間も上演できてしまう。もちろん、その中でブラッシュアップを続けることにより変化や進化は起こるんでしょうけど、大きな枠組み自体は揺るぎませんよね。しかし、プロレスには同様の再現性がないんです。まさに一度っきり。同じ試合をすることはできない。その点において“ドキュメンタリー”といいますか。そこが、演劇や映画にはない、スポーツならではの優位性なのかなって。

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