視点、行間、見出し GRAPEVINEの世界観に欠かせないもの

―曲だけでなく、アレンジも予想外の展開がありたまらくドキドキしました。美しい曲も途中で必ずと言っていいほど汚すアレンジが入ってくる。ウィルコが好きなGRAPEVINEらしいなぁと。

田中:アレンジに関して言うと、別にきれいなものとか聴きやすいものを作ろうっていうものではなくて。何か違和感や、いびつさを感じるもの、いわゆるオルタナティヴな部分を感じるものに惹かれて作っていると思うんですよ。だからこのアルバムの中には変なアレンジがいっぱいあります。それはいわゆるパロディーであったり、オマージュであったり、茶化しであったり、悪ノリであったり、多分そういう色んなものだと思います。

―そういう音を入れることがGRAPEVINEにとって正解ということですか?

田中:何が正解というのはないんじゃないかなという気がします。例えば、売れることや皆さんが聴きやすいものを正解とするのであれば、僕らがやっていることはそれではないです。

西川:あまり、カッコいいなという感じでは作ってないです。ニヤニヤ笑って作っている感じです。

田中:その感覚を僕はすごく重要だと思っています。逆に言うと、多くの日本のバンドに圧倒的に足りないのは、ユーモアだったり毒だったり皮肉だったりするのかもしれない。そこを我々は大事にしたいと思っています。とは言え、結局我々もポップなものが好きなんですよ。ロックを含めポピュラ―ミュージックが好きなんです。だから人並にグッと来るような部分だって絶対に欲しいわけです。なので、バランス感覚なんですかね。好みの混ぜ方というか、ミクスチャー具合なんだと思います、GRAPEVINEらしさって。

―そして、今回も歌詞の歯ごたえが半端なかったです。詞を書くにあたってはいつものように古典文学を読み返したのでしょうか?

田中:そういうものも参考文献として使わせていただいています。ただ、前作でシェイクスピアを引用していたら、リスナーの間でその曲がマクベスのテーマソングみたいに扱われるようになったんです。「違うって」って言ってももうダメなんですよ。シェイクスピアを引用して伝えたかった社会的メッセージはもうどっかにやられてしまうんです。具体的な名前を持ってきたが故に、それの曲になってしまう。それが嫌なので、今回はどこから何を拾って来たかというのは巧妙に分からないようにしました。

―でもなぜ古典文学を参考文献に使うのですか? 言葉の強度の問題ですか?

田中:歌詞って口語体で書くことが多いと思うんですが、曲と一緒になって音として入ってくる歌詞を“これ何?”っていう違和感のあるものにしたいんです。よく“歌詞が聴きとりにくい”って言われるんですが、それは聴きとりにくいのではなくて、その文脈で次の言葉が予想できないということなんだと思うんですよ。意図的にそうしているんです。予想しない言葉が来ると、そこに行間が生まれます。そういうセンテンスを書く時、影響を受けたり、面白いなと思った言葉やフレーズを使うんです。そうすると、その行間に奥行きが生まれるからです。そもそも僕は自分を表現者だとは思っていないんですよ。ロックにしてもそもそも日本人に根付いたものではないはずやと。全部借り物だと思っているんです。それでいいと思うんです。自分が影響を受けてカッコいいなと思った、感動したことをやりたい。で、やったら本家とは似なかったけど、違うものができた、そういうことやと思うんです。

―曲のタイトルも凄いですよね。例えば「弁天」!

田中:最高じゃないですか? どんな曲か聴いてみたくなりますよね(笑)。

―しかも「弁天」の後の曲が「God only knows」っていう。それだけでヤラレました。

田中:ありがとうございます。まぁそういうとこだと思うんですよ。というか、そういうとこが足りないんです、他の人達は(笑)。

―それにしても「弁天」という言葉のチョイスは改めて面白いですよね。

田中:歌詞はすごく時間をかけて書くんですけど、どこまで伝わっているのか?まぁほとんど伝わってないんだろうなということをよく思いますけどね。それでもこういうふうにやらざるを得ないです。

―別に伝えたいわけじゃないんですか?

田中:というか意地悪なのかもしれない。例えばいろんな警鐘を発していたりするんですけど、巧妙に明言することを避けているので、深読みしないとわからないんです。そうすることで自分の責任を回避しているのかもしれないですけどね。

―なるほど。

田中:白黒ハッキリつけるとなると、結局自分にも返ってくるものです。例えば何かを攻撃しようと思って歌詞を書いている時も、「攻撃している自分はどうなんだ」っていう視点が必ず入ってくるわけですよ。「お前は一体どの偉そうな目線でそれが言えるんだ」って。結局いろんな人から見た視点が入り、ドストエフスキー的な、ポリフォニックな歌詞に仕上がっていくケースが多いです。

―それがGRAPEVINEの歌詞の真骨頂とも言えると思います。

田中:逆に見出しが強くなって太字になり過ぎると危険だなとも思うので、そういうところを巧妙に考えつつ書いています。シェイクスピアを分かりやすく引用してしまったがためにシェイクスピアでしかなくなってしまった曲って悲しいなと俺は思ったわけですよ。メッセージが強く打ち出されていることによって、楽曲の良さやアレンジや音色というのは死んで行ってしまう。ダイレクトなメッセージソングを否定しないですが、音楽という意味だけで言うとあんまりやりたくない。

―ちなみにそういうのはバンド内で話したりするんですか?

田中:一切しないですね。そういうのって歌詞を書く、歌を歌う人の話なので。メンバーはレコーディングで音楽を作っているんですよね。音楽を作っている間はそんなメッセージ云々の話なんて一切関係ないので。例えば欧米であれば生きて活動していること自体がメッセージという人もいると思う。その場合は自身のアイデンティティがメロディやリズムを発しているかもしれない。ただ、我々は違うと思います。そもそもロックも借り物ですし、日本人という国民性です。複雑なものが好きな国民性から真っ直ぐなメッセージは出てこないでしょう。

―つまり……その国民性+音や言葉でニヤってしまうオルタナな要素=GRAPEVINE?

田中:そもそも僕はロックのロックっぽいところが好きじゃなかったですからね。ロックのいわゆる共同幻想を呼び起こすような部分、皆で同じ方向を向くような部分、そういうのを嫌ってきたタイプなんです。だから、こういう音楽を奏でてしまうんです。



『ALL THE LIGHT』
GRAPEVINE
SPEEDSTAR RECORDS
発売中


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