アームストロング船長が愛聴していた「スペースエイジ・バチェラー・パッド・ミュージック」

『ファースト・マン』2019年2月8日(金)より全国順次ロードショー(Courtesy of Universal Pictures)



ブリッジスが劇中で披露したのは、ヘロンの1stアルバム収録曲「ホワイティー・オン・ザ・ムーン」。録音されたのは1970年だが、内容からいってアポロ計画の只中に作られた曲だろう。ヘロンが反対集会でパフォームした記録はないけど、心憎い演出である。

そんな反対派をよそに、ニール・アームストロングが独身時代から愛聴している音楽として描かれているのが、テルミン奏者ドクター・サミュエル・J・ホフマンによる「ルナ・ラプソディー」。ゴズリングが役作りの過程で、アームストロングの愛聴曲だったことを突き止めたことで脚本に組み入れられたというこのナンバーは、典型的なスペースエイジ・バチェラー・パッド・ミュージック(SABPM)だ。



SABPMとは、独身男性が当時は高額だったオーディオ・セットで聴くことを想定して作られた、宇宙をテーマにした甘く美しいムード・ミュージックのこと。ここで言う独身男性とは即ち中流以上の白人男のことであり、ギル・スコット・ヘロンが体制側とみなしていた敵でもある。アームストロングはその典型だった。しかしほぼ手動でロケットを操って、月面に到達したばかりか地球に帰ってくる奇跡を成し遂げたのもまた彼なのである。アームストロングの偉業は善悪なんてものを超えた地平にあった。チャゼルは自らのそんな考えを、スクリーンを通じて僕らに語りかけているのだ。



『スモール・トーク・アット・125丁目レノックス通り』
ギル・スコット・ヘロン
スタジオに招いた親しい友人たちを前にライブ形式でレコーディングされたギル・スコット・ヘロンのデビュー・アルバム(1970年発表)。「ホワイティー・オン・ザ・ムーン」の他、彼の代名詞的なナンバー「ザ・レヴォリューション・ウィル・ノット・テレヴァイズド(革命はテレビで流れない)」も収録されている。

長谷川町蔵
文筆家。最新刊は『文化系のためのヒップホップ入門』(w/大和田俊之)。その他の著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『あたしたちの未来はきっと』(TABA BOOKS)、『21世紀アメリカの喜劇人」(スペースシャワーブックス)、「聴くシネマ×観るロック」(シンコーミュージック・エンタテイメント)など。

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