大炎上フェスの裏側 『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』監督インタビュー

―撮影前は、ビリーに対してどんな印象を抱いていましたか? また実際に完成してみて、その印象は変わりましたか?

撮影をはじめた時、ビリー・マクファーランドがどういう人間か、よく知らなかった。FYREのことでは、彼はメディアにはほとんど出てこなかったからね。明らかに彼本人も、自分よりモデルのほうがフェスのイメージにピッタリだと思っていたはずだ。彼が黒幕だったこと、そしてビリー・マクファーランドという人間がいかにキレ者だったかをちゃんと理解するのにずいぶん長いことかかったよ。長い道のりだった、1年まるまるかけて撮影したからね。最終的には、ソーシャルメディアの申し子である人物が、いかにしてオーディエンスを自分の世界へ導いたのか、という人格研究という形になった。

―彼が撮影のためにに口を開いてくれるだろうとは予想していましたか?

実は、ビリーを撮影するためにカメラとクルーを引き連れて2度もセッティングしたんだ。ずいぶん早いうちから撮影の話を進めていて、そしたら最終的に、彼がギャラを要求してきた。僕らはビリーにギャラを払うのは無理な相談だという結論に達した。あまりにも多くの人がフェスティバルのせいで辛い目に遭ってきているんだからね。

―熟考の末の決断ですか? それとも即決?

この件に関してはしっかり協議した。彼のインタビューはすごく貴重だとも思ったけど、でも結局、自分たちが納得できなかったんだ。ビリーに関してはニュース映像もたくさんあったし、アーカイブ映像もあった。噂だと、彼も自分には言い分があると思っているみたいだけど。

―スタッフの1人が映画の中で、「奴らはクソみたいな野郎だが、誰よりも頭がいい」と言っていました。この発言をどうとらえましたか?

僕はつねづね、『シンプソンズ』のモノレールの回みたいだなと思っていた。(ビリーは)敏腕セールスマンなんだよ。インタビューでも折に触れて、彼のカリスマや夢を売り込みの手腕が語られている。いまの世の中、結果は目で見える形で現れるんだ。Instagramを見れば、誰がどういう生活をしているのかがまるわかりだ。彼らは自分たちが得意なこと、つまりマーケティング戦術に専念した。それが今回の事件の面白いところさ。彼らには、フェスを実行するのに必要な実際の作業が見えていなかった。僕が思うに、普通はフェスの構想を固めて、それからどういうマーケットにアピールしようかと考えていくものだけど、彼らの場合は逆から進めていった。その結果、痛い目に遭ったというわけさ。

―現在のビリーの印象は?

彼はすごく複雑な人間だ。ニュース映像を見ただけでは、彼の魅力やカリスマ性はわからなかった。どこか器用な感じにみえたんだよね。撮影に取りかかって、いろんな人からビリーとのやり取りや彼の熱意、その感染力を聞いて初めて、彼がどういう人間なのか理解を深められたと思う。

彼は実際、ほかの人が気づかないチャンスを嗅ぎ分ける力に長けている。彼はソーシャルメディアの世界に生きていて、だれもがこの手のライフスタイルに憧れていることを熟知している。バハマで過ごしながらひらめいたんだろう、「ワオ、みんながInstagramで見ているこの情景を売り物にできるんじゃないか」ってね。そのひらめきは大成功した。彼にある種の才能があったことは否めない。だけど、アイデアというのはひらめきだけじゃないからね。

―「彼も以前は稀代の実業家だと思われていたのに、今では巨大な恥さらしと笑いものになってしまった」という発言も出てきます。あなたの中で、彼に同情する部分はありますか?

基本的に、僕はとことん客観的であるよう努めている。物語の全容が明らかになって、ビリーの行く末が見えてくると、それほど同情も感じなくなる。いまもFYREフェスの失態のツケを払っている人と話をすれば、彼に同情するのはなおさら難しくなるね。僕が今朝話をした男性も、毎週のようにFYREの後始末に追われている。彼の会社は、幾多の困難を乗り越えて、見事バハマに最先端のステージをくみ上げたんだ。ヘラクレス級の犠牲を払ったのに、その代償まで払わされている。ものすごく大変だったと思うよ。

「結局、ようするに金持ちの連中が島に行ったって話だろ」と言いたくなるかもしれないけど、仕事としてかかわった人たちはいまも山のような後始末に追われている。そこまでいけば、同情なんてかけらもなくなるよ。ビリーはマンハッタンに戻って以前と同じ生活を送っているのに、膨大な数のバハマ人には一銭も支払われていない。よくものうのうと生きてられるもんだ。僕に言わせれば、この事実が彼に同情を感じない最たる理由だ。大勢の人が給料未払いの状態でいるのに、大金を手にした一握りの人間もいるんだ。大勢の人の生活がその金に懸かっているのに。同情するのは彼らのほうだよ。

Translated by Akiko Kato

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