映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が語る、ラップ全盛の時代に、白人アーティストに求められているものとは?

2018年のトム・ヨーク(Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images))

音楽評論家・田中宗一郎と映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が旬な音楽の話題を縦横無尽に語りまくる、音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan」の人気連載「POP RULES THE WORLD」。2018年12月発売号の対談では、ラップやブラック・カルチャー全盛の時代における、白人のアーティストの現状や彼らに求められているものについて、宇野が解説している。

宇野:ポップミュージック全般で今年一つ顕著に表れた傾向としては、『グレイテスト・ショーマン』『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー/ スター誕生』と、ラップ以外のアルバムのメガ・ヒットがほぼ映画絡みっていうことですね。その一方では、トム・ヨークやジョニー・グリーンウッドを筆頭に、バンド出身、もしくはバンド在籍中のミュージシャンが映画音楽家として足場を固めつつあるという状況もある。つまり、白人のミュージシャンは音楽と映画の境界線上にその活路を見出している。レディー・ガガの復活も含めて、それはネガティブな文脈でとらえるべきことはなくて、「その方法があった!」っていうことですよね。


トム・ヨークが映画『サスペリア』に提供した「Suspirium」のパフォーマンス映像

宇野:『クリード 炎の宿敵』のサントラはマイク・ウィル・メイド・イットがプロデューサーを務めて、錚々たるラッパーが勢揃いしているわけだけど、そこでメイン・テーマを手がけているのはボン・イヴェール。テーム・インパラやジェイムス・ブレイクが相変わらずプロデューサーの一員やネタ元としてラッパーたちから重宝されているのもそうだけど、白人の一部のミュージシャンは映画やラップと交わることによって存在感が高まっている。だから、今年もカーディ・Bと一緒にやったりしていたマルーン5みたいに流行に擦り寄るのも一つの手だけど、むしろ向こうから必要とされる場所にいるっていうことが重要なんじゃないかと。



田中:「外部としてのロック」が求められてるってことだよね。

宇野:そうそう。そして、そこでの重要人物もはっきりしてきた。

一方の田中は、白人の表現ではグライムスとビリー・アイリッシュに注目しているという。

田中:白人の表現ということで言えば、グライムスの新曲「ウィ・アプリシエイト・パワー」も面白いと思った。またAIをテーマにした、いかにも彼女らしい曲なんだけど、サウンドはメタルだよね。前作の『アート・エンジェルズ』(2015年)は評価は高いけど、商業的にはふんわりしたところに落ち着いちゃった。でも、次作は英国の新世代メタル・バンド、ブリング・ミー・ザ・ホライズンと一緒にやっているって噂もあるし。この前の対談でも話題に上ったビリー・アイリッシュにしても、トラップとメタル、あとゴスだよね。この辺りの繋がりや流れも変化の兆しなんじゃないかな。

宇野:ビリー・アイリッシュはエモ・ラップと地続きの部分もあるけど、確かに白人が白人文化に回帰している流れはありますよね。流石にここまでブラックのモノ・カルチャーみたいになってしまうと、それの反動が起こるのは理解できる。しかもそれが面白い形で出てきているっていう。



その後、2人の会話は、こうした海外の状況を受け、日本のアーティストの意識や表現はどのように変化しているか? というテーマへと進んでいき、星野源、米津玄師、SKY-HIなどについて本誌では議論をしている。

Edit by The Sign Magazine



田中宗一郎と宇野維正の2018年の年間ベスト・アルバム/ベスト・ソングのSpotifyプレイリストはこちら。







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