音楽評論家・田中宗一郎が解説する、『君の名前で僕を呼んで』が提示した「歴史を俯瞰する視点」の重要性

『君の名前で僕を呼んで』で主演を務めたティモシー・シャラメとアーミー・ハマー(Photo by Rune Hellestad- Corbis/ Corbis via Getty Images)

音楽評論家・田中宗一郎と映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が旬な音楽の話題を縦横無尽に語りまくる、音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan」の人気連載「POP RULES THE WORLD」。2018年12月25日発売号の対談では、ルカ・グァダニーノ監督の『君の名前で僕を呼んで』に深い感銘を受けたという田中が、その理由を詳しく説明している。

カット割りや演出が生み出す映画的なカタルシスや細部のさりげない引用にも言及した上で、田中は『君の名前で僕を呼んで』が持つ「歴史を俯瞰しようとする視点」ついて、このように解説する。

田中:原作は1987年の設定なんだけど、ルカ・グァダニーノはわざわざ83年に置き換えてるの。83年というのは第二次大戦直後からずっとキリスト教民主党が主動的な力を持ってたイタリアで、初めてイタリア社会党からベッティーノ・クラクシっていう首相が輩出された年なんだよね。セリフにも出てくるんだけど、それってイタリア南部の票がイデオロギーを超えた5党連立を押し上げたからなんだって。しかもグァダニーノは、もし彼ら2人(主人公のエリオ・パールマンとオリヴァー)のその後を撮るとしたら、シルヴィオ・ベルルスコーニの時代である90年代、つまりコミュニズムの終わりと、フランシス・フクヤマが言うところの「歴史の終わり」っていう新しい世界秩序の時代が舞台になるだろうって言ってるのね。要は、そういう歴史を俯瞰しようとする視点にも完全にやられたんですよ。

こうした視点を持つことによって、『君の名前で僕を呼んで』は83年を舞台にしながら2018年のことも描いていると田中は語っている。

田中:ほら、今年の春、イタリアでは五つ星運動と同盟という2つの政党が連立政権を樹立したでしょ。五つ星運動はもともとリベラルな左翼ポピュリズム政党だったんだけど、それが反移民という部分で極右の同盟と結びついて、まさかの極右政権が出来上がっちゃった。ポピュリズムの前ではイデオロギーの違いなんてすっかり無効だっていう。戦前日本の近衛新体制運動とまったく同じなわけじゃない? だから、『君の名前で僕を呼んで』という映画は83年をモチーフにして、2018年を描いた映画でもあるってことでさ。

さらに本誌では、田中の話を受け、宇野がグァダニーノ監督の手掛けた最新作『サスペリア』について解説を加えている。



Edit by The Sign Magazine



田中宗一郎と宇野維正の2018年の年間ベスト・アルバム/ベスト・ソングのSpotifyプレイリストはこちら。







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