苦難を乗り越えた俳優・安藤政信、40代のこだわりを語る

「孝之からLINEで連絡があって、2人で飲んでいるときに映画の説明があったんです。『これ、よかったら読んでみてください』と言いながら渡された台本、かなり酔っ払ってたけど帰って一晩で読んで。次の日には『わかった、やるよ』と返事していました。とにかく、孝之のために自分の持てる力を全て注ぎ込みたいと思ったんです。本当に素晴らしい役者が初めて挑戦することだから、絶対に失敗させたくなかったというか。もちろん、現場では藤井さんや進之介と繋がって楽しく仕事しましたけど、あくまでも“入り”は孝之でした」

仕事の内容ももちろん大事だが、何より人との繋がりや、そこに至るまでのプロセスを大事にしているのが安藤という役者なのだろう。

「僕らの仕事って、無機質なものに感情を与えていくものだから。自分の中からその感情が湧き上がってこないと、作品も無機質なままになってしまう。感情を込めるためには、そこに入っていくまでの順番や過程はとても大事ですね」

ではなぜ、「芝居は好きじゃない」と言い切るのだろうか。

「とにかく台本を読むのが嫌いなんですよ。この間の『ブラック・スキャンダル』でも、9ページ分も1人で喋らなきゃならないところがあって。覚えずに現場に行って、適当に言ってみたらやっぱりOK出なかったですね(笑)。メチャクチャ迷惑かけました。でも、『こんなセリフ言いたくない』って思うと、『用意、スタート!』とカチンコ鳴らされても言えないんです。特にこのドラマは3人を騙す役でしたからね、キツかった……。夢でもうなされていました(笑)」

おそらく、芝居が「好きじゃない」というよりも、あまりにも真剣に向き合いすぎて妥協が許せなくなっているのではないだろうか。「若い頃は、芝居をするのが嫌で現場をバックれたこともよくあった」と振り返る安藤。それでもオファーが絶えないのは、役者が「天職」だからだろう。


Photo = Kentaro Kambe

「そうなんですかね? 確かに、なんでも器用にできるタイプではないですけど。高校の頃、バイトをやっていても先輩に激怒されてばかりでした。『これ、やっとけよ』って言われてもボーッとしてるから(笑)。どこへ行っても必要とされてなかったですね」

そんなときにスカウトされ、役者の世界へ。自分が必要とされる「居場所」を、ようやく見つけたという思いはきっとあったはずだ。「これでも最近は、まだちゃんとやっているほうなんですよ」と笑う安藤。その大きなきっかけとなったのは、やはり「家庭」を持ったことだろう。

Styling = Taichi Kawatani Hair and Make-up = Hiroyuki Hosono ロケ地協力:Studio EcoDeco

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