星野源『POP VIRUS』を考察「日本語ポップスの王道に潜む、国民的スターのトリック」

星野源(Photo by PRESS)



たとえば表題曲の「Pop Virus」では、ベースになる歌とリズムの中に、入れ替わり立ち替わり様々な楽器が入っては消えていく。具体的にはギターとエレピ、シンセが音色が切り変わっていくように入れ替わりながら、曲が進む。だから、様々な楽器が入ってきて、ある面ではカラフルなのに、ある面では実にすっきりしていて、空間的にはかなりシンプルなのに、地味さはない。山下達郎のコーラスを加えた「Dead Leaf」でも、鍵盤が印象的に動いたり、ベースやドラムにも微妙な変化があり、それに伴いコーラスも変則的に入っていて、繰り返しではなく常に動いているが、なんとなくさらっと聴けて流れていく。

そうやって、意識的に耳を傾けないと気付かないであろう、わずかな変化が様々なところに差し込まれていて、最大公約数的な安定感を漂わせながらも、違和感をほんの少しだけ匂わせている。そして、そのどこか控えめで慎ましくシンプルなアレンジの中で、歌=メロディーと、グルーヴ=リズムだけが強く浮かび上がってくる。「恋」や「アイデア」といったシングル曲では、かなりプログレッシブに楽曲を変化させたり、大胆に場面を切り替える構成を取り入れ、それを歌ものの華やかさとして聴かせた星野源だが、アルバムではそういった手法をまた別の形で応用しながら、自身のコンポーザーとしての進歩をひっそりと主張していたのかもしれない。

そんな『POP VIRUS』において、ドラムは大半の曲で同じような音色と質感で統一されているのも興味深い。ファンク向きなサステインが抑えられた、バシッと乾いた音のドラムが全編で流れ続ける。その間には「Pop Virus」「Pair Dancer」「サピエンス」「アイデア」「Nothing」でSTUTSがMPCを叩いたり、星野自身のプログラミングも含め一部打ち込みも混じっている。ただ、その打ち込みのビートはアルバムの中に溶け込んでいて、音色自体は生ドラムとそこまで変わらないものにも聴こえるし、曲によっては生なのか打ち込みなのか迷うようなビートもあるくらいだ。



生ドラムから途中でSTUTSのMPCが加わり、また生ドラムに戻る構成の「アイデア」でのMPCの音や、「Pair Dancer」のトラップ風のビートが特徴的だが、星野源が自分でトラックを作っていた「KIDS」も質感がそんなに変わらない。そう聴こえるのは、音色が生ドラムで出せるものと近いうえに、「アイデア」ではMPCを“演奏”させていたり、「KIDS」では808のビートをクオンタイズせずに少し揺れたリズムをそのまま取り込んだり、人間的(=非機械的)なグルーヴを活かしていることも関係あるのだろう。ドラマーがドラムセットの中にパッドを組み込んでいるのと変わらないような質感で、MPCや打ち込みを使っているようにも感じられるし、そういった細かなディテールがアルバムに統一感をもたらすことに繋がっているように思う(ベースに関しては、エレキベースとアコースティックベース、シンセベースを主張しすぎない程度に使い分けて、曲ごとに絶妙に異なるニュアンスを加えている)。

さらに、「Pair Dancer」では機械的なビートに敢えてアコースティックピアノの濁った和音特有の空気たっぷりな響きを合わせたり、「Nothing」でも機械的なビートと、それとは対照的なかなり動きまくるエレキベースを合わせたり、様々なやり方でビートの機械っぽさを中和していたりもする。新しさを取り入れつつも、それを悪目立ちさせない工夫が随所にある。『YELLOW DANCER』収録の「Snow Men」ではクエストラヴを思わせるネオソウルのビートを取り入ていたり、リズムへの工夫は以前からあったが、ここでの打ち込みと生ドラムの関係性は前作から飛躍的に進化していると言っていいだろう。

タグ:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE