ルーファス・ウェインライトが語る初期2作の軌跡、LGBTQを巡る変化とトランプ政権への回答

1998年のルーファス・ウェインライト(Photo by Catherine McGann/Getty Images)



―あなたが触れたように、20年前、セクシュアリティを最初からオープンにしている男性アーティストは非常に稀でしたが、ここにきて当たり前のことになりましたよね。LGBTQアーティストを巡る環境の変化についてはどう感じていますか?

ルーファス:う~ん、どれだけ変わったのか見極めるのは、すごく難しいと思うんだ。確かに一方では、ゲイであることを公言するのはいたってノーマルなことで、昔のようにそれで逆風が吹いたり、成功の妨げになったりはしなくなった。でもトランプ大統領が出現し、保守・右翼勢力や狂信的なクリスチャン勢力がこれまでになく大きな影響力を誇っている今、僕たちが勝ち取ったポジションは実は非常にあやふやなのかもしれない。だからこそ、油断しないで今後も可能な限り正直であり続けること、リアルであり続けることが重要だと思う。自分を隠さずに。昔の状況に逆戻りするのはいとも簡単なことだと思うし、残念ながら進化は止まってしまったような気がしないでもないよ。

―先程も名前が挙がった、11月のアメリカでの中間選挙に合わせて発表した新曲「Sword of Damocles」と、ブッシュ政権下の2007年に発表した「ゴーイング・トゥ・ア・タウン」、2曲のポリティカルな内容の曲も今回のセットに含まれています。あなたは「Sword of Damocles」を昨今の政情への“アーティスティックな返答”と評していますが、プロテスト・ソングの型にはまらないこういう曲に仕立てた狙いは?

ルーファス:まずこの曲は、我々全員の頭上に“ダモクレスの剣”(※)がぶら下がっているのだと説いているんだ。要するに、歴史の中で今我々は、政治的な意味でも、文化的な意味でも、環境問題においても岐路に立っているということだね。途方もなく大きな変革が必要とされていて、それは辛いプロセスに、恐らくバイオレントなプロセスになるだろうし、衝撃も大きいだろう。でも剣は落とされなければならないんだよ。従って、必ずしも直接トランプ大統領に宛てて書いた曲ではなくて、変化をもたらそうと呼びかけている曲なのさ。ほら、僕は前回の大統領選挙ではヒラリー・クリントン候補を支持して、彼女は結局負けてしまったわけだけど、「トランプのおかげで、これまでは表面的に取り繕っていて隠されていた人種差別や憎悪や性差別といった問題がさらけ出される結果になったんだから、それは良かったんじゃないかな」とは言いたくない。クリントン候補のほうが大統領に相応しかったことに変わりはないからね。とは言え、こういう現実を突き付けられている今、それに対処するよりほかに選択肢はないんだよ。

※ダモクレスは、ギリシャ神話に登場するシラクサ市の王ディオニシウス1世の廷臣。彼がしきりにディオニシウスの栄華を褒めそやしたところ、王は自分の代わりにダモクレスを王座に座らせた。彼は王になった気分で悦に入っていたが、頭上を見上げると1本の髪の毛で吊るされた剣の切っ先が光っていて、栄華繁栄の中でも常に危険と隣り合わせなのだと諭したとされている。



―トランプ政権になってからアメリカとカナダの比較論も盛んになりましたが、あなたの場合は両方の国のアイデンティティを併せ持っているわけですよね。

ルーファス:ああ。すごくおかしいんだけど、実はカナダにもかつて、スティーヴン・ハーパーというとんでもない首相がいたんだ。僕はよりによって、アメリカはオバマ政権でカナダはハーパー政権だという時期に、カナダで暮らす羽目になった。だから、オバマ時代のアメリカではあまり長く過ごすことができなかったんだよ。そしてようやくアメリカに戻って来たと思ったら、トランプが大統領になった! だから、どちらの国でもいい時代を逃してしまった気がする。そんなわけで、僕がもしも日本に移住することになったら、気を付けたほうがいいと思うよ(笑)。

―ちなみに「ゴーイング・トゥ・ア・タウン」はイラク戦争を受けて誕生した曲でしたよね。その後ジョージ・マイケルがカヴァーし、2年前にはリリー・アレンがウィメンズ・マーチ(トランプ大統領の就任式翌日に世界中で行なわれた抗議デモ)に際して歌いました。そして、2019年の世界においても有効なのですが、このようにして曲が辿ってきた旅路についてどう思われますか?

ルーファス:そりゃあ、僕の曲を素晴らしいアーティストたちが歌ってくれたことには大いにインスパイアされるし、感激もしたし、感謝の気持ちを抱いているよ。特にジョージはシンガーとして、僕の長年のヒーローのひとりだったから、本当に感動したな。そして今の世の中においても有効だという事実は、残念なことでもあるけど、僕はどうも物事のダークな側面に目を向けがちなんだよ。つい、心を困惑させる事柄について歌ってしまうのさ。


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