M・ナイト・シャマラン、転落からの復活「自分はただ、そこに絵があると信じさえすればいい」

M・ナイト・シャマラン(Photo by Erik Tanner for Rolling Stone)

『シックス・センス』(1999年)、『アンブレイカブル』(2000年)、『サイン』(2002年)など、キャリア初期のヒット作が尽きると、ハリウッドはシャマランを「終わった監督」だと見放した。だが、彼の物語はそこから始まった。

M・ナイト・シャマランは、フィラデルフィアの西に125エーカー(約50万5千平方メートル)のカントリーハウスを構え、2007年以来家族とともに暮らしている。

フィラデルフィアのダウンタウンにある、明るくて開放的な農場レストランで朝食を取りながらのインタビュー。この後はここからそう遠くない場所で、Apple向けの新TVシリーズのロケハンをする予定になっている。充実した人生の多忙な一日――。もちろん、数々の問題や仕事での浮き沈みは経験してきた。「僕は地元で映画を作るんだよ」と、48歳のシャマラン監督はやや鼻にかかった、常時熱に浮かされているような声で話した。彼の作品はほぼすべて、故郷フィラデルフィア市内、もしくは近郊が物語の舞台となっている。医者の両親に連れられて幼い頃にインドから移住し、ここで私立の学校に通った。「今日は、娘のフランス語のテストを手伝ってやって、ロケハンをする予定だ」と監督。「両方いっぺんでも平気だよ。こういう朝を迎えられることに感謝しているんだ。これ以上ないほど最高の人生だ」

実際のところ、最高以上の人生だ。「今は、自分のキャリアでもかなり面白い時期だね」と、シャマラン監督は少々控えめに言った。1月18日に日本公開を控えた新作映画『ミスター・ガラス』は、ドラマティックなショウビズ復活劇となることは間違いない。シャマラン監督の最大ヒットとなった2作品、2017年公開の多重人格スリラー『スプリット』と2000年公開のダークなスーパーヒーロー誕生ドラマ『アンブレイカブル』の続編にあたるこの作品には、『スプリット』の主演ジェームズ・マカヴォイと、『アンブレイカブル』の主演ブルース・ウィリスとサミュエル・L・ジャクソン(新作のタイトルになっている、キレ者だが骨がもろい悪者役を熱演)らが顔を揃える。

「サスペンス・スリラーとコミックものの融合なんだ」とシャマラン監督。「アクションやCGIではマーベルに敵わないけどね」。この日監督が身に着けていたのは紫色のシャツ。1983年当時のプリンスを真似たかのような、ちょっと変わったファッションセンスをもつジャクソン演じるキャラクター、ジョン・バルベイトスに敬意を払ったものだ。シャマラン監督には独特なカリスマ性がある。甲高い声で気さくに笑い、大きくて優しげな茶色の瞳は何ひとつ見逃さない(「ああ、見てごらんよ、すごく愛らしい」と、年長の男性が、トイレに立つ前に妻の額にキスするのを見てこう言った。「奥さんのほうは完全に無視してるけど、それがまたたまらないね」)。ごく普通の男性という雰囲気や、誰の目にも明らかな謙虚さは、ひょっとすると意図しているのか、はたまた上辺だけのものかもしれないが、それでもチャーミングであることには変わりない。

『シックス・センス』で(あるいは、サミュエル・L・ジャクソン流に言えば「死んだ人が見える映画」)、シャマランは監督の知名度だけで映画が売れる類のディレクターの仲間入りを果たした。またこの映画で、当時の彼には不本意だったが、「ヒネリのあるホラー映画を作る男」という地位を得た。本人は次回作『アンブレイカブル』を、内容通りコミックムービーとして売り出したかったが、スーパーヒーローものはニッチな層にしか受けないと説得され、震撼スリラー映画として打ち出すことにした。「『あの手のコンベンションに行くような連中ばかりさ』」とシャマラン監督は、映画会社――それも、よりによって数年前にマーベルを買収したばかりのディズニーのお偉方――から説得された言葉を思い起こした。「『コミックという言葉を使えば、ここにいる人間すべてを無視することになるよ』ってね」

Translated by Akiko Kato

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