いかにして無名の英国シンガー、エラ・メイは北米ポップ・シーンの頂点に立ったのか?

オンライン上で話題となったエラのInstagramに目をつけたのは、米西海岸の人気プロデューサー、DJマスタードだ。彼はYG、2チェインズ、ビッグ・ショーン、リアーナなどのヒット曲を手掛けてきた人物。2015年の秋、マスタードはエラをスタジオ・セッションに誘ってきたという。その時の様子をエラはこのように回想している。

「彼はこんなふうにメッセージしてきたの。『きみはフリーかい?』だから私はこう答えた。『もちろん、フリーよ!』って」

そのセッションは成功し、エラはマスタードのレーベル「10サマーズ・レコーズ」と契約。拠点もイギリスからLAに移した。そして、2016年2月に『タイム』、同年11月に『チェンジ』、2017年2月に『レディ』という3枚のEPをリリースしている。

「ブード・アップ」は、3枚目のEP『レディ』の最後に収録されている曲だ。ただ、これはリリースされるや否や、いきなり火が点いたわけではない。曲が世に出てから数カ月経って、ベイエリアのクラブやラジオのプレイリストで話題になり始めた。

「R&Bの世界ではたまにそういうことが起こると思う」と、エラはじわじわと熱が広がっていったような「ブード・アップ」のヒットについて分析している。

「まずはみんなに私たちが作っているサウンドを紹介して、それを理解してもらうまでの時間を持とうと思っていた。きちんと消化されないといけないの。今でさえ、有名なアーティストのフィーチャリング無しで、新人が純粋なR&Bソングをリリースするなんて驚きなんだから」

確かに、ドレイクがずっと音楽業界のトップに君臨していることを例に挙げるまでもなく、近年はラップとR&Bの境界を溶かすようなメロディアスなフロウ、もしくはラップ調のヴォーカルが北米メインストリームでは主流だ。ローリングストーン誌が指摘するように、「ラップのスタイルを取り入れようとしないR&Bのシンガーたちは、ラジオにおいてはアーバン・アダルト・コンテンポラリーというニッチなカテゴリーに押し込められてきた」のである。しかし、だからこそ、「ポップの世界には『臆面もなくソウルフルなヴォーカル』という満たされていなかったニーズがあり、この曲がそれを埋めたのだ」とローリングストーン誌は分析している。

エラ・メイのセンセーションは「ブード・アップ」だけで終わらなかった。妊娠を発表したカーディ・Bに代わって、ブルーノ・マーズの北米スタジアム・ツアーのオープニング・アクトに大抜擢。その後押しもあって、続くシングル「トリップ」は全米11位、2018年10月に送り出されたデビューアルバム『エラ・メイ』は全米5位と、その人気が一過性のものでないことを証明した。

まさにエラ・メイの全米ブレイクは、2018年最大のシンデレラ・ストーリーだ。アルバムのリリースを目前に控えたタイミングでローリングストーン誌の取材に応えたエラは、自分の音楽に誇りを持ってこのように語っている。

「R&Bは死んでない。もう一度メインストリームに押し上げることができると思う。明らかに、みんなR&Bが好きなんだから」

Edit by The Sign Magazine

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