ジャズ・シンガーは、ジャンルの主流から離れ、クロスオーバーに取り組まねばならないこともたびたびある。しかし、今世界中から最も注目を浴びているジャズ・ヴォーカリストのセシル・マクロリン・サルヴァントは、ジャズの本流に十分満足しているようだ。彼女が2018年にリリースした本作を聴くと、その理由がわかる。アメリカン・スタンダードを中心に、ピアニストのサリヴァン・フォートナーと2人だけのレコーディングによる本作は、ムードによって魅力的で豪華に聴こえたり、完全にシンプルに感じたりする。ロジャース&ハマースタイン作『The Gentleman Is a Dope』のようなアップビートな楽曲は軽快でレトロな楽しさがあり、アルバムを締めくくるジミー・ロウルズ作でサクソフォニストのメリッサ・アルダナをゲストに迎えた『The Peacocks』のような長いバラードは、葛藤を抱えた感情の深い井戸だ。自分の元々のスタイルに無限の広がりを感じている時に、横道へ逸れる必要はない。