ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ジャズ・アルバム」トップ20

3位 ウェイン・ショーター『エマノン』

ウェイン・ショーターのアイディアは、常にジャズの枠を超えている。本作はさらに、音楽の枠をも超えた。ボックスセットには、長年のパートナーと組んだカルテットとオルフェウス・チャンバー・オーケストラによる3枚組のライヴCDが収められ、さらに、ショーター自身も製作に参加したオリジナルのグラフィック・ノベルもセットになっている。ノベルに登場する惑星を飛び回る“いたずらな哲学者”と、アルバム内の大胆なインプロヴァイザーとを関連付けるのは難しいことではない。サクソフォニスト兼コンポーザーのショーターは、ダニーロ・ペレス(P)、ジョン・パティトゥッチ(Ba)、ブライアン・ブレイド(Dr)という気心の知れたメンバーと共に、詩的な優しさから劇的な戯曲まで幅広く表現している。ショーターは85歳になった今なお新たな境地を模索している。



2位 セシル・マクロリン・サルヴァント『ザ・ウィンドウ』

ジャズ・シンガーは、ジャンルの主流から離れ、クロスオーバーに取り組まねばならないこともたびたびある。しかし、今世界中から最も注目を浴びているジャズ・ヴォーカリストのセシル・マクロリン・サルヴァントは、ジャズの本流に十分満足しているようだ。彼女が2018年にリリースした本作を聴くと、その理由がわかる。アメリカン・スタンダードを中心に、ピアニストのサリヴァン・フォートナーと2人だけのレコーディングによる本作は、ムードによって魅力的で豪華に聴こえたり、完全にシンプルに感じたりする。ロジャース&ハマースタイン作『The Gentleman Is a Dope』のようなアップビートな楽曲は軽快でレトロな楽しさがあり、アルバムを締めくくるジミー・ロウルズ作でサクソフォニストのメリッサ・アルダナをゲストに迎えた『The Peacocks』のような長いバラードは、葛藤を抱えた感情の深い井戸だ。自分の元々のスタイルに無限の広がりを感じている時に、横道へ逸れる必要はない。



1位 ザ・バッド・プラス『Never Stop II』

結成して17年でバンドは、コンテンポラリー・ジャズ界における最も絆の強いグループとしての評判を築き上げてきた。メンバーの頻繁な入れ替えが常態化している現在では、とてもレアなケースといえる。ところがバンドは2017年に、オリジネルメンバーでカリスマ的存在だったイーサン・アイヴァーソンに代わり、ベースのリード・アンダーソンの旧友で経験豊かなピアニストのオリン・エヴァンスの加入を発表した。エヴァンスの参加はサプライズであり、楽しみでもあった。2010年の傑作アルバム『Never Stop』の続編として位置付けられる本作に参加したエヴァンスは、プログレッシヴな複雑さや騒々しいインプロヴィゼーションに対峙する心に響く透明なメロディで、バンドへ自然に溶け込んだ。本作はバンドの新たなチャプターを開くものではなく、アンダーソンとデイヴ・キング(Dr)が長年のファンに対して、自分たちのコアとなる美学が揺るぎないものであることを約束する作品となった。一方で、脱退したアイヴァーソンがサクソフォニストのマーク・ターナーとのデュオでレコーディングした哀愁漂うアルバム『Temporary Kings』は、全く異なる音楽性でも彼が上手くやっていけることを証明している。

Translated by Smokva Tokyo

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE