監督:ティボー・デュヴェニクス Tierra Whackのミニアルバムと合わせてリリースされた、モーフィングの連続映像は、シュールで、R&Bにのせたトリップ体験――15曲を15分で一気に駆け抜ける――22歳のフィラデルフィア出身のラッパーは、さまざまな設定で登場する。マペットたちが歌う墓場、パステルカラーのネイルサロン、リビングルーム、死に装束に身を包んだ葬式、ウォン・カーワイの映画から出てきたようなダイナー。Whackの曲に合わせ、各場面がぱっと切り替わる。物憂げにブルーな気分で華やかなレッドカーペットを歩いたかと思えば、次の瞬間には山男風の訛りで「あんたのケツを/ぶっ飛ばす」と宣言し、赤い風船を飛ばしている。監督のティボー・デュヴェニクスは、ミシェル・ゴンドリーばりのペースをどんどん上げていくが、一番驚いたのは最初の場面転換。アーティストがキュビズム風の顔が描かれたフードを下ろすと、家庭内暴力の被害者の顔が現れる、というシーンだ。ニューヨークタイムス誌とのインタビューで、本人がいうところのWhack Worldとはどんな場所かと尋ねられると、「クレイジーだけど、穏やかな場所よ」と答えた。「すごく怖くて、居心地がいいときもあれば、そうじゃないときもあるの」D.F.