SKY-HIの2018年総括「アジアから置き去りにされた日本と、閉塞感を救った音楽の力」

SKY-HI(Photo by Masato Moriyama)

SKY-HIが先ごろ発表した新作『JAPRISON』は、これまでもラップとポップのバランスを試行錯誤してきた彼が、新たなフェイズに到達した傑作だ。「自分の傷口と向き合うことで、閉塞感を破る鍵が見つかった」と本人は語っているが、ここでいう閉塞感とは、決して彼の内側だけから生じたものではない。

今回はニューアルバムの背景を掘り下げつつ、後半では2018年のベストも選んでもらった。この取材を行ったのは、朝から晩まで長丁場だった取材日のラスト。しかしSKY-HIは疲れたそぶりなど一切見せず、前のめり気味のバイタリティー溢れる口調で、自身の変化と問題意識についてたっぷり話してくれた。
【ヘアメイク:椎津恵 スタイリスト:SUGI(FINEST)】

―2018年を振り返って、SKY-HIさん的にはどんな年でしたか?

SKY-HI:後々振り返ってみたときに、すごくデカい一年だったんじゃないかと思うかもしれない。いろんな紆余曲折があって、夏にミックステープの『FREE TOKYO』を出して、今回の『JAPRISON』を誕生日にリリースして。「New Verse」って曲も入っているように、“生まれ直し”みたいなイメージがなんとなく『JAPRISON』にはあるんですよ。『FREE TOKYO』を作った時はここまで日本産のラップ・ミュージックに前向きになれるとは思ってなくて、閉塞感というか、天井がぼんやり見えて少し嫌な気持ちになってたんですけど、『JAPRISON』を作っていく中で「これはいける!」って思えてきたんです。

―なるほど。

SKY-HI:自分の成功をイメージするときに、(頭のなかで)他人の成功をトレースするというのを、表舞台に立つ人なら一度はやると思うんですよ。今のシンガーソングライターなら米津玄師、シカゴの若いラッパーならチャンス・ザ・ラッパーにみんな憧れる、みたいな。そこで格好つけるなら、「俺の成功にプロトタイプはない」って言いたいところなんだけど、これまでだったら100%強がりだった。でも、今は自信があるし、自分のプロトタイプはないだろうなって思えるから、夢は大きいですね。

―『FREE TOKYO』の頃に感じていた閉塞感というのは、具体的にどういったものでしょう?

SKY-HI:文化的閉塞感と精神的閉塞感の2つがあったんです。文化的閉塞感っていうのは、日本のポップ・ミュージックについて考えた時に、何をもって成功とするのかっていうところ。まず、米津くんみたいに、人から人に数珠繋ぎになっていって、国全体を巻き込んだ社会現象になるっていうのが一つ。それは世界中の至るところで起きているし、むしろいいことなんだけど。それともう一つ、日本の芸能が求めているものに対して忠実に再現できた音楽が、そのハブに乗って広がっていく、というヒットの流れがあるじゃないですか。今まで日本で生まれた国民的ヒットって、ほぼ全部そっちで。「それが天井(ゴール)なのか?」って思うと、面白くないなーっていう閉塞感、プリズン感ですね。

―日本の文化構造や芸能システムに閉塞感を感じていたと。

SKY-HI:そうそう。あとは、海の向こうが楽しそう過ぎたっていうのもありますね。今まで、アメリカやイギリスに憧れてた時は、海外は海外、日本は日本って思えてたけど、ここ数年は韓国を筆頭にアジアの勢いがすごいじゃないですか。タイのラッパー達の曲がすごい再生回数を叩き出して、しかも日本からPETZが参加してたりして。PETZなんか俺の友達ですよ! 20歳の頃から知ってる友達がタイのラッパーにフィーチャーされて、3日で600万再生とかされてるのを見たら、なんか腹立つでしょ(笑)。昔はKOHHに対して思うくらいだったんだけど、最近はそうやってジェラることが増えてきて。


YOUNGGU「SHIBUYA」。タイの人気ラッパーと一緒に、YENTOWNのPETZが日本から参加。

―アジアの他の国では世界に通用する動きが活発になってきている。しかし、日本だけはそうじゃない。

SKY-HI:そう、今はまだ“ウィズアウト・ジャパン”なんですよ。文化は韓国、経済は中国を筆頭にかなり盛り上がっているじゃないですか。それに引っ張られて、タイ、シンガポール、インドネシア、台湾とか、いろんな国で同時多発的な動きが巻き起こってる。それこそ、ジョージなんて大阪生まれで初めての1位ですよ! 本当にすごいことなのに、日本でニュースにならないのは何でなのかなって。言ってみたら、大坂なおみと同じような快挙じゃないですか。


今年11月に発表されたジョージの1stアルバム『バラーズ1』は、USビルボードのR&B/ヒップホップ・アルバム・チャート及びR&Bアルバム・チャートで初登場1位を達成。

―全くその通りですね。

SKY-HI:でも逆に、今はそこに夢が出てきたかな。日本人の大半にとってアメリカ人とイギリス人の区別が(見た目では)ついてないのと同じで、欧米の人からすると日本と韓国と中国は同じ東アジアなんですよね。俺も去年アメリカに行ったら、これまでと待遇が全然違っていて、アジア人でラップやってるというだけで、めちゃくちゃ興味を持たれて話しかけられたんですよ。アジア人が「人種モテ」してる感じがある。そういう状況だからこそ、アジアの内側でのヘイトは本当にイヤなんです。そういう文化的閉塞感が精神的閉塞感に繋がっていくんだと思う。

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