エース・棚橋弘至が恐れる「プロレスブーム」の先にあるもの

棚橋弘至(Photo by Shuya Nakano)

2019年1月4日に開催される、国内最大のプロレス興行「WRESTLE KINGDOM 13 in 東京ドーム」。メインで行われるIWGPヘビー級王座戦は、棚橋弘至にとって単なるベルト獲り以上に大きく重たい意味を持つ。そこに賭けられたのは、彼が信じる「プロレス」の未来なのだ。

「お前のプロレスには品がない」。新日本プロレスの頂点となるIWGPヘビー級のベルトを保持するケニー・オメガに対して放たれた棚橋弘至の一言は、新日本プロレスだけでなく業界全体に大きな波紋を呼んだ。棚橋といえば、言うまでもなく現在のプロレスブームを興した立役者の一人。メディアにも積極的に露出して、プロレスのイメージ向上に努めてきた人物である。一方のケニー・オメガといえば、棚橋が興したブームをさらに大きく世界レベルにまで推し進めた、ファンの間でも絶大な支持を得ている、超がつくほどの人気者だ。

新日本プロレスの人気がピークにあるといっても過言ではないなか、なぜ棚橋はケニーの存在を否定するのか。「奴は自分のポジションを意地汚く守りたいだけ」とケニーは苦々しげに言う。程度の差こそあれ、プロレスファンのなかにも似たような感想を持った人がいただろう。果たして、棚橋があの発言に込めた真の意味とは? そこには、これまでシーンを支えてきた男だけが感じている、ブームの“危険信号”があった。

今、自分が見つめているのは業界の「3年後」

2018年には、過去最高の売り上げ額を達成した新日本プロレス。地方を含め、各会場ともチケット入手が困難になるほどの活況を呈しています。にもかかわらず、先日の「品がない」発言に象徴されるように、棚橋選手が現在のブームに対し、ある意味で水を差すようなスタンスをとっているのが気になるところ。あの発言に違和感をおぼえたファンも多いと思うのですが。

棚橋:確かに、現在の新日本プロレスは全国の会場でフルハウスになっています。試合に対する観客の声援や熱狂も、ここ数年で最高潮といってよいかもしれない。とても嬉しいことなんですが、僕が危惧しているのは、もっと長期的な問題なんですよね。それが、先日のケニーに対する「品がない」発言の根本にあって。言葉の選び方が適切ではなかったこともあり、思わぬ方向に炎上してしまいましたけど(苦笑)。

─棚橋選手が、あの発言に込めた本来の意図は、どこにあったのでしょう?

棚橋:これはケニーに限ったことではないんですが、最近の新日本で行われている試合って、内容がどんどんエスカレートしているように思いませんか?

─確かに過激な技も増えていますし、30分越えのマラソンマッチも当たり前になりつつあります。「さすが新日本プロレスは、ここまでやるのか!」と驚かされる試合が、今年は特に多かったような気がしますね。

棚橋:長年観ているファンなら、そこまでの技を出さなければ決着がつかないことをわかってもらえるとは思うんです。時には、反則や凶器攻撃が必要になることも理解できるでしょう。しかし、初見の方やファンになって間もないお客様の場合はどうなのか。特に初見の方なら「やっぱりプロレスは過激で、野蛮なスポーツだ」と思ってしまう可能性が高いんじゃないのかな。

─つまり、プロレスに対しネガティヴなイメージを持ってしまうと。

棚橋:僕の中で「3年理論」っていうのがあって。現在やっていることの影響が反映されるまでには、だいたい3年くらいの年月がかかるという。これは、新日本の低迷期から復活までを体験したことで得た結論なんですけど。

─初見のお客様を大切にしなければ、3年後には観客数が減ってしまうかもしれない。

棚橋:メディアで取り上げられる機会が増えて、そこで初めてプロレスに興味を持った方も多いと思うんですよ。そうした初見のお客様が、数年後にファン層の中核をなす存在になる。僕はそう信じています。

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