エース・棚橋弘至が恐れる「プロレスブーム」の先にあるもの

─今回の棚橋選手の主張は、一般論としても非常に魅力と説得力があります。では最後の質問をしたいと思います。先ほどもお伝えしたとおり、今回はタイトルを争う両者にインタビューをしていて、互いの個性がわかるように、同じ質問を用意しているんです。ズバリ、トップに立つプロレスラーとなるために大切な要素を3つ挙げるとしたら?

棚橋:ひとつめは……「愛」かな。

─って、いきなり決めセリフ出しちゃいますか!

棚橋:あ、いやいや今のは無し。やっぱり「愛」は最後にしとこう(笑)。だとすれば、一つ目は「資質」ですね。

─生まれつきの才能という意味ですか?

棚橋:プロレスラーの条件ということなら、資質はそこまで重要ではないのかもしれないけど、トップに立つ選手になるためには、厳しいようだけど天賦の才能が必要だと思います。特にベルトを巻くことができるのは、選ばれたレスラーだけだから。


棚橋弘至(Photo by Shuya Nakano)

─「100年に一人の逸材」を名乗る棚橋選手らしいですね。では2つ目は?


棚橋:「責任」でしょう。チャンピオンはもちろん、トップに立つ選手には、団体や業界を支える責任がなければダメだと思います。

─そして3つ目が「愛」というわけですね。

棚橋:その場合の「愛」とは、もちろん自分に向けたものではなく、ファンや団体そしてプロレスそのものに向けて注がれるべき愛ですよね。その点では、責任とセットになっていると考えてよいと思います。

─ちなみに、現在IWGPヘビー級王者として、文字通り団体のトップに立っているケニー選手には、この3つの要素が備わっていると思いますか?

棚橋:「資質」は認めますよ。間違った形かもしれないけど「愛」もなくはないと思う。でも「責任」という意味では0点ですよね。彼はチャンピオンとしての責任を、まったく果たしてない。

─それは、先ほど言っていた団体や業界を支える責任ということでしょうか?

棚橋:ケニーがいちばんダメなところがそこなんですよ。あいつは自分のことしか考えてないから。試合も「俺って凄いだろ! 悔しかったら俺を超えてみろ!!」って感じなんですよね。それでは対戦相手の光も消してしまうし、後に続く者たちに対しての教えもない。いうなれば、ケニーの歩いた道はすべて焼け野原になってしまっているんです。

─真の王者であれば、みんなが進むべき正しい道をつくらなければならないと。

棚橋:そう。僕はこれまでエースとして、常に後進のために道を創ってきたという自負がありますよ。ベルトを巻いていた時はなおさらね。

─その点もまた、今回ベルトに挑戦する理由のひとつということでしょうか。

棚橋:そうですね。ケニーがトップにいることの危うさに気付いているのが、僕だけということもあったし。だからこそ、今年はG1 CLIMAX 28(毎夏恒例のビッグイベント)で優勝し、東京ドームのメインでベルトに挑戦する資格を得たんですよ。ケニーを倒すことが、新日本プロレスやプロレスの未来のために必要だと信じていますから。

─実は今回のインタビューをするまで、棚橋選手がベルトに挑戦するのは、再びトップの座について脚光を浴びたいという自己愛の強さが大きな理由なのかと思っていたんです。以前から、ここぞというときにエゴを発揮するのが、レスラーとして棚橋選手の強みであり魅力だと思っていたので。

棚橋:確かに、僕は我儘な人間ですよ。プロレスラーには、そういうところが大事だと思ってますから。でも、今回ばかりは自分より、もっと大きなものを守りたいっていう気持ちが強いんですよね。だからこそ東京ドームの試合では、いつもと違う棚橋弘至が出てしまうかもしれない。

─ケニー選手も相当ヒートしていますからね。ひょっとしたら単なる殴り合いのような、殺伐とした試合になるのかなという心配もあります。

棚橋:ですよねぇ。今のうちに、打撃の練習もしておくかな(笑)。

棚橋弘至
1976年生まれ、岐阜県出身。立命館大学法学部の在学中に新日本プロレスの入門テストに合格。1999年デビュー。“100年に一人の逸材”と呼ばれる新日本のエース。主な獲得タイトルはIWGPヘビー級王座、G1 CLIMAX 優勝など。近年はテレビや執筆活動など、リング外でも活躍の幅を広げており、先ごろ初主演映画『パパはわるものチャンピオン』も公開された。

WRESTLE KINGDOM 13 in 東京ドーム
60分1本勝負 ダブルメインイベントII
IWGPヘビー級選手権試合
ケニー・オメガ vs 棚橋弘至 他
2019年1月4日(金)東京ドーム
OPEN 15:00 / START 17:00
https://www.wrestlekingdom.jp/



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