ザ・レモン・ツイッグス、新編成で帰還。東京公演のライブレポが公開

TSUTAYA O-EASTで開催されたザ・レモン・ツイッグスの来日公演の模様(Photo by Yosuke Torii)

スタイリッシュなバロック・ポップで世界中を虜にするNYの兄弟デュオ、ザ・レモン・ツイッグスが新作『Go To School』を引っさげて初のジャパン・ツアーを敢行。その最終日、11月29日にTSUTAYA O-EASTで行われた東京公演のレポートをお届けする。

ザ・レモン・ツイッグス流のロック・オペラとも呼べる新作『Go To School』を引っさげた初の単独来日公演。ヒトの男の子として育てられたチンパンジー=シェーンの成長譚という、荒唐無稽なアイディアが話題を呼んだ同作だが、アナログの多重録音でDIYメイドした楽曲をどうライヴで再現するのか? 幼なじみでもあったミーガン(ベース)とダニー(キーボード)が抜けたことで、ファミリー・バンド的な連帯感/魅力が損なわれてしまっていたら? いやはや、そんな心配は杞憂に過ぎなかった。

新メンバーとして迎えられたのは、ダリル(ベース)、トマーゾ(キーボード)、アンドレス(ドラムス)という、いずれもセッション・プレイヤーとして名を馳せる実力者。結果的に、①音の厚みが増したことで過去のナンバーもビルドアップすることに成功した。②ダダリオ兄弟が交代でドラムを担当する必要がなくなったので、Wフロントマン&ツイン・ギターという視覚的にもアガる構図になった。③屋台骨がしっかりしたことで兄弟のリミッターが外れ、「コイツらは本物(のキ●ガイ)だ」とこの目で再確認できた。と、明らかに今回のラインナップ刷新にはメリットしか感じられない。おそらく、アークティック・モンキーズ(そういえば猿繋がりである)のツアー・サポートでいくつも大舞台を経験し、自信と手応えを得たことも兄弟にとってデカかったのだろう。

アルバムの表題曲にしてヒドゥン・トラック「Go To School」を入場テーマにメンバーが現れると、予想どおり疾走感たっぷりのパワー・ポップ「Never in My Arms, Always in My Heart」でスタート。「フェミ男」なんて死語も浮かぶほどピッタピタのボーダー・タンクトップに、サングラスでキメた弟マイケルが奇声を上げながら江頭2:50ばりのダンスを繰り広げたかと思えば、トッド・ラングレン師匠を彷彿とさせる長髪にデニム・セットアップが渋い兄ブライアンが、のっけからウインドミル奏法&ダックウォークの連発でステージを所狭しと跳ね回る。ザ・フー、チャック・ベリー、ビーチ・ボーイズ、ビートルズ、エルトン・ジョン、クイーン、マーク・ボラン、イギー・ポップ、ビッグ・スター、ジェリーフィッシュ……etc、ざっと10組以上ものレジェンドが次々と脳裏をよぎって頭の処理が追い付かない。このロックンロール博覧会状態はスタークローラーの公演でも味わった気がするが、彼女たちが元々レモン・ツイッグスの前座としてライヴ・デビューした背景を鑑みれば、シンクロしてしまうのも当然といえば当然か。

セットリストは『Go To School』を軸にしつつも、今年3月にリリースしたシングル「Foolin’ Around」でローリング・ストーンズ風におどけてみせたり、2017年のEP『Brothers Of Destruction』収録の「Light and Love」で一糸乱れぬ美しいコーラス・ハーモニーを響かせたり、そしてもちろんデビュー・アルバム『Do Hollywood』からも3曲が披露されるなど、サービス精神旺盛な内容。とりわけ、アンドレスのジャジーなドラミングを合図に超展開を見せる「These Words」の化けっぷりは見事だったし、気づけば上半身裸でねちっこいギター・ソロを弾き倒すブライアンの恍惚とした表情にはグッときたし、華麗なハイキック連発→床からのネックスプリング→アンプによじ登って特大ジャンプという恐るべき身体能力を見せつけたマイケルの破滅型アクションにもハラハラさせられた。

セトリには記載のなかったR・スティーヴィー・ムーア(ジェイソン・フォークナーともコラボするUS宅録界の重鎮。ダダリオ兄弟との共演歴も)のカヴァー「I’ve Begun To Fall In Love」もとろけそうなぐらい絶品だったが、何といってもハイライトは『Go To School』の山場でもある「The Fire」だろう。6分を超える長尺にして、生徒たちからイジメられていたシェーンが学校に火を放ち100人もの死者を出す――という悲劇的な楽曲なのだが、マッチを擦る仕草を交えつつ何度も何度もマイクを殴りつけ、狂おしい絶叫を繰り返すマイケルの全身全霊のパフォーマンスは、もはやシェーンが憑依しているとしか思えないほど凄まじかった。デビュー当時17歳にして世界を飛び回ることになったマイケルが無事に高校を卒業できたのか、はたまたドロップアウトしたのか定かではないが、かつて「学校」に対して誰もが抱いたであろう複雑な感情/愛憎をここまでリアルに、直情的に表現できるシンガーを筆者は他に知らない。

ライヴはその「The Fire」から間髪入れずに『Do Hollywood』の名曲「As Long As We’re Together」へと繋ぎ、原曲のピアノ・リフをアコギでアレンジした「If You Give Enough」でフィナーレへ。《人生は素敵なものになるよ、与える愛の分だけね》と、ブライアンが張り裂けそうな声で歌い上げるナンバーだが、確かな希望を残して幕を引く『Go To School』との連続性を感じさせてくれる素晴らしい瞬間だった。

サブスクリプション/プレイリスト全盛の時代にあえてコンセプチュアルな作品に挑む野心。そして、それを自作自演で完璧なエンターテインメントに昇華してしまう実力。近年のロック・バンドでは他に類を見ないほど“過剰”にアートを追求するダダリオ兄弟の姿勢はクイーンとも重なるが、映画『ボヘミアン・ラプソディ』が驚異的な大ヒットを記録している今このタイミングでレモン・ツイッグスの来日公演が実現したことには、運命の巡り合わせを感じずにいられなかった。ちなみに、会場では非常に多くの日本のミュージシャンを見かけたが、彼らがある日突然コンセプト・アルバムを発表したら、きっとダダリオ兄弟のせいかもしれません。

Text by Kohei UENO

Rolling Stone Japan 編集部

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