催涙ガスの次は?移民への武力行使を激化させるトランプ政権

武力行使も辞さないとほのめかした11月上旬の記者会見の席で、トランプ大統領は、不法入国者の難民申請は却下する計画も明らかにした。大統領曰く、難民資格の申請は正規の入国地点に制限されると言う。大統領のこの計画は、先週アメリカ地方裁判所のジョン・ティガー判事によって暫定的に差し止められた。ティガー判事は、たとえ不法入国者であっても、彼らの難民申請を拒否することは連邦移民法とは「相容れない」と主張。これに対し、トランプ大統領はティガー判事を「オバマ判事だ」と攻撃したが、ただちに最高裁判所主席判事のジョン・ロバーツ氏から返り討ちにあった。保守派のロバーツ判事は「ここには、オバマ判事もトランプ判事も、ブッシュ判事もクリントン判事もいない」と声明を発表。さらに「独立した司法機関の存在こそ、我々が感謝すべきものだ」と付け加えた。最高裁判所は今後、ティガー判事の判決をめぐって、支持ないし却下の裁定を下す予定だ。

アメリカ自由人権協会(ACLU)は月曜に声明を発表し、移民に向けた催涙ガスの使用を糾弾した。「いかなる状況においても、税関国境取締局(CBP)が子供に対して催涙ガスを使用するべきではありません」と声明文は主張。「このような暴力行為は残忍かつ非人道的です。アメリカの南の国境にやってきた移民たちは人間です。小さな子供を連れた母親もいます。彼らは難民申請と言う、法で認められた人権を行使しているのです」

トランプ政権はそこまで同情的ではなかった。国土安全保障省(DHS)のキルステン・ニールセン長官は声明の中で、公共の安全を持ち出して今回の措置を支持した。「DHSは、このような不法行為を決して許容しません。国家安全保障の理由から、正規入国管理署を閉鎖することも厭いません」 大統領は、この問題の責任はメキシコと民主党にあると非難した。「キャラバンが南の国境に来るずっと以前にメキシコが阻止していたら、どんなにスムーズだったろう。あるいは、彼らの出身国がキャラバンを結成させなければ良かったのだ(奴らはこうやって自国からある種の人々を追い出し、アメリカに捨てるつもりだったのだ。そうはさせるものか)」とは、日曜夕方のトランプ大統領のツイート。「民主党の奴らがこの問題を引き起こした。入国は絶対させない!」

月曜の朝、大統領は「極悪非道な犯罪者」を「USAから」守るために、国境を「永久に」封鎖すると脅しをかけた。

ドナルド・J・トランプ
@realDonaldTrump
メキシコは、極悪非道な犯罪者だらけの移民に「自分たちの国へ帰れ」と追い払うべきだ。空路でも陸路でもなんでもいいからとっとと帰れ、USAには絶対に入国させない。必要とあれば、国境を永久に封鎖する。議会よ、壁の費用を捻出せよ!
2018年11月26日 8:19 PM

これでも物足りないのか、TV番組『Fox & Friends』は国境警備基金の理事をつとめるロナルド・コルバーン氏をゲストに迎えた。アメリカ税関・国境警備局の元副局長のコルバーン氏は、使用された催涙ガスはサワークリームのようなものだと述べ、ガスの危険性をやんわり否定した。「あれは天然素材なんですよ」と元副局長。「なんなら、ナチョスに塗って食べても平気です」

ガスの煙で息ができないでいる子供たちの母親に向かって、あのガスは調味料としても使えますよ、と説明できる者がいるだろうか。

今年5月、エルサレムにアメリカ大使館が新設されるのを受け、約3万5000人のパレスチナ人が抗議デモを敢行。イスラエル軍が発砲し、58人の死者と1200人あまりの負傷者を出した。日曜の午後にサン・イシドロで起きた事件と同様、パレスチナ人の何人かはガザ地域とイスラエルを隔てるフェンスの武力突破を試みたが、大多数は平和的に抗議デモを行う人々だった。死者の中には子供たちも含まれていた。ホワイトハウスは暴動に遺憾を表する代わりに、暴動の原因はガザ地帯の反対勢力ハマスにあると非難した。「イスラエルにとって重要な日だ」というのは、暴動のあった朝のトランプ大統領のツイート。大使館のオープンに寄せて、こう投稿した。「おめでとう!」 国境で起きた暴動にはとくに言及することはなかった。

あれから数ヶ月、大統領はアメリカ軍に対し、国境で石を投げる移民には武力で応じるよう指示した、と公の場でほのめかした。そのわずか数週間後、国境警備隊は移民に催涙ガスを投下。母親と子供たちを逃げ惑わせた。次に国境の移民たちが抗議する時には何が起こるのか? 考えてみただけでも恐ろしい。トランプ政権が難民申請を認める法律の無効化を画策する中、移民たちから抗議の声があがるのは避けられまい。いくら警察当局でも、難民申請の権利を行使しようと必死の人々に銃口を向けることはないだろう、タカをくくる人もいるだろう。だがここまでくると、そのように楽観視もしていられない。



Translated by Akiko Kato

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