連載:モモコグミカンパニーの居残り人生教室「アール座読書館」

ー渡邊さんは、新卒でどこか就職されてからこのお店を始めたんですか?

渡邊:いえ、大学を卒業した後、会社に就職はしたことなくて。実は漫画家みたいことをやりたいなと思っていて、飲食もそんなに本腰入れてやるというよりは、アルバイトといえば飲食だろうという感じで続けていて。自分がお店を経営する側に立つとは思いもしませんでした。

ー私もステージに立つお仕事をしてますけど、まさか自分がという思いはあって。素人感が抜けなくて、以前はそこがイヤだったんですね。「どこにでもいそうだよね」って言われたこともあるくらい、普通だったんです。でも最近、それは逆に自分の強みなんじゃないかなと思って。そういう人間だからこそ人前に出て、「みんなと同じなんだよ」って示すことで、「私も大丈夫だ」って思ってくれる人が一定数いるかもしれない。そういうふうに考え方を切り替えてからは、このままの自分で自信を持とうと思うようになりました。

渡邊:そうなんですね。そういう傷つきやすさや繊細さみたいなのって、裏返しにしたらすごく強みになったりしますよね。

ー自分の中に隠し持っていた弱さや暗さを表に出したら、共感してくれる人がたくさんいたりして、こんな私でも分かってもらえるんだと救われますし、逆に私みたいな人がいることで救われる人もいると思うので。

渡邊:歳をとればとるほど弱点に思ってたことが実は自分の味方になってくれる。コンプレックスだったものが、そうじゃなくなるんです。20代の頃はまったく分からなかったことですけど、だんだん感じるようになりましたね。

ーこのお店以外のことでもいいですけど、渡邊さんが今やりたいことは何ですか?

渡邊:今はこのお店とは別に上階に一つ店舗があって、あと2つお店があります。自分の中で最終的にイメージしてる形がいくつもあるので、あと3つくらいオープンできたら思い残すことはないですね。同じ店でチェーン展開とかを普通はするんでしょうけど、別々のお店って点に自分はこだわりたいので、おじいちゃんになるまでにはできればなと。

ー上の階にある「エセルの中庭」はまだ入ったことないんですけど、どんな感じの喫茶店なんですか?

渡邊:ちょっと(気分が)上がる感じですね。装飾が派手ですし、楽しくお話しできる雰囲気です。逆にこっちのお店は静める感じなので……。でも、このお店をよく知らないお二人連れがワイワイ入ってきたときに、上のお店に行っていただくことができるので、その点もいいかなと思います。

ー5つもお店のアイデアがあるっていうのは、どこかから湧き出てくるような感じなんですか?

渡邊:どんなお店にしようかアイデアを考えてると、この店では絶対できないことを思いついちゃうんです。でも一応メモっておく。そういうのをまとめて取捨選択していくと、5つくらいまでに絞れるというか。



ー私は歌やダンスが最初は苦手だったんですけど、つらかったときの経験を自分の本にエッセイとして書いたりとか、そのうち歌やダンスもだんだんと楽しめるようになってきたりとか、続けるとやれることが増えていいですよね。執筆活動も続けていきたくて、いずれは小説も書きたいなと思ってるんですけど、本を一冊書いてみて感じたのは読むのと書くのは全然違うということでした。そういうことってありますか? 喫茶店も好きでお店に通うことと自分でやるのはまったく違うと思うのですが。

渡邊:お店のファンの方がスタッフ募集で面接に来てくれたときに必ず言うのは、「こっち側に立ったら、その間はあなたの好きなアール座を失うことになりますよ」ってことです。それはもうしょうがない。

ー私はずっとお客さんでいたいですね。

渡邊:モモコさんが最初にBiSHのオーディション受けたときは違ったんですか?

ー当時は学校に行きたくなくて本屋さんばかり行ってて。そのときに見た雑誌でオーディションの募集を見つけて、興味本位で応募したら受かったんです。もともと作詞がすごくやりたくて、そしたらBiSHで作詞をやらせてもらえるチャンスがあった。自分が書いた曲をいろんな人に聴いてもらえるようになったのが一番うれしくて、それがあったからここまで続けて来れたと思います。

渡邊:そのルートで作詞ができるようになるっていうのは、なかなか思い浮かばないですよね。

ー誰でも言葉は書けるわけじゃないですか。でも、どうやったら作詞家になれるだろうと思っていて。そしたら自分の苦手だった歌とダンスの場所に作詞のできる場所があったっていう、奇妙な人生を歩んでますけど。

渡邊:でも強く思っていると、いつの間にか実現するっていうのはありますよね。

ー最近、目に見えないもののほうが力は強いんじゃないかなって思います。ほんと今日は渡邊さんとお話しできてよかったです。お店ではお手洗いの場所を聞いたことくらいしかなかったので。

渡邊:オープン当初から10年くらい通ってくださる常連さんがいたんです。でも何をされている方か全然知らなくて、あるときその方が引っ越されることになって初めてお話しをして。10年間、話をすることなく店主とお客さんの関係がずっと続いて、ようやく会話らしい会話が引っ越しの話だったという。

ー面白い関係性ですよね。私と清掃員(BiSHのファンの総称)の関係性はまたちょっと違うんですけど、通じるものがあるかもしれません。ライブとかで会っただけでは、その人のことを理解するのは難しいですけど、いただいた手紙を読むとその人のことをすごく身近に感じたりする。私も今日お会いする前、渡邊さんって一体どんな方なんだろう?ってずっと考えていて、もしかして冷たい感じの方だったらどうしよう?とか、私がイメージしているような店主像とはまったく正反対かもしれないとか、いろんなことが頭の中をよぎりました。

渡邊:優しく接するということだけでなく、あえてクールに振る舞うというのも大事にしていて、そん両方をたぶん感じ取ってくださったと思うんですけど、そのバランスはやっぱり意識してます。クールといっても冷たくするということではなく、その場を律するような感じですかね。

ーそうなんですね。このお店にいると自分の中の声がすごく聞こえてくるんです。前に本を書いていたとき、家でノートに向かうよりも、この場所で原稿を書くほうが「心の声」が出てきやすかったりして。

渡邊:僕自身、そういう場所があればと思ってこのお店を作ったんですが、そんな人は他にいるのかなっていう不安も一方にはあって。だからお客様にそう思っていただけるのがうれしいです。

ー自分がこのお店に感じていることが、私だけの勘違いじゃなかったということが今日確認できて、それだけでもうれしかったです。

渡邊:本当に励みになります。店舗経営はすごく不安になることも多いので。

ー今日はいろなお話しを聞かせていただき、どうもありがとうございました。今度お店でお会いしたときには営業中なので話せないと思いますが、また遊びに来ます!

インタビュー中、渡邊さんが「わかってくれる人」と言う言葉を発していたのが印象的だった。渡邊さんはその言葉を自分のことを「わかってくれる人」という意味で使っていた。私はこの言葉が渡邊さんのような立派な大人から発言されたことに驚いた。

自分のことをわかってもらいたいという気持ちは若者特有のものだと思っていたからだ。渡邊さんが自分の好きなものだけを集めて作ったアール座読書館は最初から多くの人に受け入れられたわけではなかったようだ。

しかし、「わかってくれる人」がいたから続けてこれたと渡邊さんは語っていた。大人になっていくにつれ、子どもの頃のように、自分の思うことや、やりたいことを押し通すのは難しくなってだろう。そうして、大人になるにつれ多くの人は丸くなっていくが、渡邊さんはいい意味で丸くはないと思った。

渡邊さんは自分のやりたいことを曲げずに夢を実現し、「わかってくれる人」を探す方法を選んでいた。

大人になっても自分の夢を持ち、大好きな空間で生きている彼は素敵だと思った。聞こえるのは水の音だけ、静寂に包まれたこの空間には、渡邊さんの熱い血が流れている。見えなくても、聞こえなくても、それはたしかにそこにある。

Edited by Takuro Ueno(Rolling Stone Japan)


モモコグミカンパニー(BiSH)
https://twitter.com/gumi_bish
2015年3月、BiSHのメンバーとして活動を開始。2016年5月のシングル「DEADMAN」で早くもメジャーデビュー。2017年7月に幕張メッセイベントホールで行われたワンマンライブ「BiSH NEVERMiND TOUR RELOADED THE FiNAL “REVOLUTiONS”」をSOLD OUT。12月には、結成からわずか3年で『ミュージックステーション』に出演し、“楽器を持たないパンクバンド”として強烈な個性を見せつける。その間、『KiLLER BiSH』と『THE GUERRiLLA BiSH』の2枚のフルアルバムを発表。2018年12月22日には幕張メッセ9・10・11ホールにて2万人規模となる単独ライブ「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE”」を開催する。現在BiSHのメンバーはモモコグミカンパニーの他、アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人。

アール座読書館
住所:東京都杉並区高円寺南3-57-6 2F
営業時間:13:30~22:30(土・日・祝は12:00~、ラストオーダー22:00)
※基本的に月曜定休

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