ジェイ・Z『ザ・ブラック・アルバム』が確立した、セールスモデルの黄金律

プエルトリコのファハルドで開催された、『スカーフェイス』のDVDリリースパーティー出演時のジェイ・Z 2003年9月25日(Carlo Allegri/Getty Images)

発売から15年を経たジェイ・Z『ザ・ブラック・アルバム』が物語る、”引退宣言”をマーケティングツールとして活用してみせたジェイ・Zの手腕とは?
 
15年前、マンネリ感と中年男性ならではの葛藤に苛まされながらも、ジェイ・Zはラップ史上屈指の名盤を完成させてみせた。ジェイ・Zは同作を最後に引退することを表明していたが、結果的に彼は現役であり続ける道を選んだ。実際のところ、彼の仲間やコラボレーター、そして忠実なファンたちも、『ザ・ブラック・アルバム』が彼の引退作になるとは信じていなかった。それでもなお、彼の目論見は見事に功を奏した。あれから15年が経った現在でも、引退ツアーの内容を凝縮したかのような同作のムードは健在で、「フェイド・トゥ・ブラック」におけるクライマックス感は色褪せていない。マーケティングの面でも絶大な効果を発揮したそのトリックは、一介のビジネスマンからビジネスオーナーに転身した彼ならではやり方だった。それ以来、ジェイ・Zのすべてのアルバムは明確なストーリーを宿している。『ザ・ブラック・アルバム』は、ショーン・カーターが商品としてのジェイ・Zを確立した作品であり、以降そのイメージは数年おきに刷新されている。このセールスモデルは、彼が実際に引退する時まで続くに違いない(彼が実際に前線を退く日が来ればの話だが)

2006年以降、彼はポスト引退宣言アルバム、自身を神格化した映画のサウンドトラック(と銘打った自身のスタジオアルバム)、2枚のポップアルバム(それぞれに明確な目的があったが、片方は「俺は大富豪でサムスンの大ファン」というあけすけなメッセージを発していた)、そして「妻に隠れて浮気をし、自身を戒めた」ことを告白するアルバムを発表した。さらにはその妻との連名で、危機を乗り越えたことで絆が深まったことを世間にアピールするアルバムをリリースした。クリエイティビティはピークを過ぎ、停滞期に入っていることは否めないにも関わらず、リスナーは作品毎に打ち出される新たなイメージを今も心待ちにしている。プロジェクトの発表毎に、その繋がりはより強固なものとなっていった。

「見損なってもらっちゃ困るな。注目されたいだけなら、他にいくらでも方法はあるさ」2003年に行われたニューヨーク・タイムズ紙のTouréとのインタビューで、引退宣言は注目を集めるためのスタントなのではないかという質問に対し、ジェイ・Zはそう答えている。しかし実際には、記者の推測は正しかった。メジャーレーベルから出るあらゆる作品にはそういった策が必要であり、それはアーティストというパッケージの一部となっていた。ヒップホップの舞台から去る理由について、彼はこう語っていた。「シーンがつまらないからさ。ヒップホップはもうリアルじゃなくなった」。

Translated by Masaaki Yoshida

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