EUの著作権法改正案「第13条」はミュージシャンの味方か? YouTubeと音楽業界の見解

彼女の主張によれば、ミュージック・ビデオの著作権所有者が複数におよぶ場合(たとえば3~4人の作曲家による共作など)、YouTubeは第13条によって負わされる法的責任を免れるべく、そのビデオをブラックリスト化せざるを得ない場合があると言う。ウォシッキー氏は、YouTubeで57億回再生され、史上最大のヒットを飛ばしたルイス・フォンシとダディー・ヤンキーの「デスパシート」を例に挙げた。

「録音権や出版権など、複数の著作権が(「デスパシート」には)介在しています」とウォシッキー氏。「YouTubeは、複数の著作権所有者と動画の使用権およびロイヤリティの権利を結ぶことになりますが、それら所有者の存在が明らかでない場合もあります。不確かな状態では、我々としても第13条が定める賠償責任を避けるために、このような動画をブロックせざるを得ないでしょう」

ウォシッキー氏の主張は、音楽業界の著名人も支持している。デフ・ジャムや300 Entertainment、ワーナー・ミュージック・グループなど、数々のレーベルを運営するライアー・コーエン氏だ。レコード業界歴30年を誇る彼は、2016年にYouTubeの音楽ビジネス・グローバル担当に任命された。

コーエン氏は、第13条によってリミックスやカバー曲、中でも「ファンによるトリビュートソング」がYouTube上から駆逐されてしまう、とレコード会社に警告した。この手のタイプのコンテンツは、彼曰く「音楽業界の強力なプロモーションツール」であるが、法律的にみれば、本来の著作権を侵害している。

ウォシッキー氏やコーエン氏は、デュア・リパやエド・シーラン、ジャスティン・ビーバーといったビッグ・アーティストが、レコード会社と契約するずっと前から、YouTubeにカバー曲をアップロードしていたことを思い出してほしい、と音楽関係者に必死に訴えている。

第13条賛成派の音楽業界の主要メンバーたちは、こうした意見をまったく相手にしていない。英国作曲家協会(BASCA)のクリス・ハント会長は、90年代中期にブリットポップ・グループ、Longpigsのリードヴォーカル兼作曲担当として、自らもミュージシャンとして成功を収めた人物だ。

ハント会長らは、第13条を欧州議会で通過させようと熱心にロビー活動を行ってきた。彼はウォシッキー氏やコーエン氏が誤った情報を吹聴しているとして非難し、「デスパシート」のような曲がYouTubeから排除されるという考えは「まったくのでたらめだ」と一蹴している。

「広告収入の金額を想像してみてください。YouTubeはたった1本の動画から、何十億もの再生回数を獲得しているんですよ」とハント会長。「楽曲に携わったほんの数名のクリエイターにどうやって金を支払おうか、YouTubeは考える気がないとでも言うつもりですか? 彼らクリエイター本人が主張しているというのに? クリエイターに正当な対価を払わないなんて、バカも休み休み言っていただきたい。そんなの単なる責任転嫁ですよ」

さらに彼はこう続けた。「仮に第13条がYouTubeを潰したとしても、まあ実際にはつぶれることはないでしょうが、だからどうだっていうんです? MySpaceのときと同じですよ。もっと良い、より公平なサービスがすぐに隙間を埋めてくれます」

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