音楽界の反逆児、テイラー・スウィフトが示す正義とは何か

アメリカン・ミュージック・アウォードのテイラー・スウィフト ロサンゼルスのマイクロソフト・シアターにて (Photo by Kevin Winter/Getty Images For dcp)


そもそも、ユニバーサルから返済不要のSpotify条項を取り付けることで、スウィフトはアーティスト仲間にどれだけの額の利益を確保したのか?

ユニバーサルによれば、スウィフトの主張は、Spotifyの分配金は「他の大手レーベルがすでに支払った金額よりももっと良い条件」でなくてはならない、ということ。参考までにソニーを例に挙げると、すでに述べたように、彼らはSpotify株の売却で得た現金の約33%をアーティスト側に支払っていると推定される。

ユニバーサルのSpotify株保有率は3.5%だが、市場価格はここ数ヶ月で8億5000万ドル相当。そのうち1/3、アーティスト還元分はおよそ2億8300万ドルにのぼる。ここで思い出していただきたい。レーベルに所属しているアーティストの95%が、レコード会社に借金が残ったままだと見られる。

もちろん、全員が同じ額を受け取るわけではない。それに、各人のユニバーサルに対する未納負債額がいかほどか、我々には知る由もない。

だとしても、前金の相場が何百万ドルというこのご時世、スウィフトが仲間のユニバーサル・アーティストに贈った返却不要金の額は1000万ドル単位だと見ていいだろう。本来であれば、彼女が契約した大手レーベルが手にできていたはずの額だ。

だが、スウィフトの契約合意で最も重要な点は、彼女が直接受け取る額は、他のスーパースターよりもずいぶん少ないと言うことだ。

SpotifyをモニタリングするサイトKworbによれば、Spotifyの歴代ストリーミング件数でいうと、Swiftは84位。通算で15億9000回再生されている。彼女がここ数年、何度となく、地球上で最高収入をあげているのにもかかわらず、だ。

SwiftがSpotifyのランキングで順位が低い理由は主に2つある。第一に、彼女は2014年、Spotifyの広告収入モデルに抗議して、自らの曲をすべて撤収したためだ。「私の意見では、音楽はタダであるべきではない」と彼女は批判した(彼女のアルバムはその後3年間、Spotifyにアップされなかった)。もうひとつの理由は、スウィフトがアルバムを「店頭に陳列」しつづけた、と言うこと。昨年ミリオンセラーを達成した『レピュテーション』を見れば一目瞭然。このアルバムは、店頭やiTunesでリリースされから3週間後にようやくSpotifyに登場した。

客観的にみれば、スウィフトのSpotifyでのストリーム件数15億9000万件は、Spotifyで最大の人気を誇るアーティスト、ドレイクのわずか1/10(彼のストリーム件数は150億回以上)で、奇遇だが彼もまたユニバーサル所属のアーティストだ。

これを掘り下げてみると、Spotifyは「月間アクティブユーザー1人あたりのコンテンツ時間数」というデータを2017年末から公開している。私の計算によれば、現在Spotifyはたった1日で約20億件のストリーミングを配信している。

ソニーやワーナーにならってユニバーサルも、Spotifyから得た9億ドル相当の収益を配当方式でアーティストに分配している。つまり、最も人気のあるアーティストが最も多い取り分を与えられる、という仕組みだ。

スウィフトは上位アーティストのトップ10はおろか、20位圏内にも入ってこない。彼女はただひとえに、自分ひとりがオイシイ思いをする契約ではなく、アーティスト・コミュニティに広く還元できる契約を取り付けたのだ。

スウィフトが音楽仲間の収入を守ろうと躍起になったのはこれが初めてではない。2015年、彼女はApple Musicが3か月間の無料お試し期間中の利益をアーティストに還元していないとして、大っぴらにAppleを非難した。

この行動で、スウィフトは音楽業界で間違いなく最も力のある企業との関係を危機に追い込んでしまった。Appleはすみやかに態度を軟化させ、スウィフトもまた、彼らの公式謝罪を受け入れた。

スウィフトは「名声と金、復讐に取りつかれている」と意地悪なことを言う者もいるだろう。だが数字が語る真実は、それとはまったく違っている。スウィフトは見かけとは裏腹に、真のパンクロック級の反逆児で、巨大企業を相手にケンカをふっかけ、自らの商業的パワーを武器に彼らをぎゃふんと言わせ、正しい行いを指せているのだ。


Translated by Akiko Kato

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