音楽界の反逆児、テイラー・スウィフトが示す正義とは何か

アメリカン・ミュージック・アウォードのテイラー・スウィフト ロサンゼルスのマイクロソフト・シアターにて (Photo by Kevin Winter/Getty Images For dcp)


Music Business Worldwideによると、三大レーベル(ユニバーサル、ソニー、ワーナー)――さらにインディーズレーベルの代表格、マーリンも含め――が2008年、初めてSpotifyとライセンス契約を結んだ際、彼らは同社の累積型優先株式の18%を受け取った。

時が経つにつれ、Spotifyの投資家が増えたことにより、この株式は希薄化していった。すなわち、スウェーデンに拠点を置く大手ストリーム会社が4月にニューヨーク株式市場に上場するころには、18%だったシェアは半分の9%になっていた。

以来ソニーは、保有していたSpotify株の50%を、およそ7億6800万ドルで売却。ワーナーに至っては、5億400万ドルで全株式を売却した。

現在まで、保有株を売却していないのはユニバーサルだけで、今後も引き続き、推定3.5%のSpotify株を保有してゆく。Spotify株の株価の値動きにもよるが、ユニバーサルの保有株の市場価格はこの1か月間で8~9億ドル相当にのぼる。

アーティストがレコード会社と契約する際、通常は小切手で「前金」が支払われる。言ってみれば銀行ローンのようなものだ。レコード会社のために稼いだ収入(稼げたらの話だが)は、負債返済に充てられる。最終的に「元が取れる」ようになった時点で、アーティストはようやく契約書で合意したロイヤリティを全額受け取れるのだ。

だが問題は、大半のアーティストが、元を取れずじまいだということ。音楽業界はもう長いこと数名の超スーパースターに支えられていて(スウィフト様、いらっしゃい)、実質彼らが「売れない」無数のアーティストたちの給料を支払っているようなものなのだ。

どのぐらい厳しい世界かをお教えしよう。巷で言われているところでは、レーベルに所属する全てのアーティストのうち、元がとれる状態なのはたったの5%。そう、レコード会社と契約したアーティストの19~20%は、前金で受け取った額を一生返せずに終わってしまう。

去る6月、ソニーは保有するSpotify株からの配当金をアーティストに分配するにあたり、こうした未納分を考慮しない、と発表して音楽業界を驚かせた。

多国籍企業がこのような寛大な措置をとるとは、まさに前代未聞の出来事だった。その結果、関係者の推定によれば、ソニーは現在所属アーティストに対し、Spotify株の売却で得た現金7億6800万ドルのおよそ1/3をアーティストに支払った。結果として、ソニー所属の何千人ものアーティストたちの銀行口座に、思いがけない臨時収入が舞い込んだ。

しかし、ワーナーはまったく異なる措置を取った。Spotify株を現金化した5億400万ドルのうち、25%(1億2600万ドル)をアーティストに分配したが、未納分の借金はしっかり考慮にいれた。要するに、1億2600万ドルという大金は、丸々会社の金庫に収められたままだった。

そこで世界最大のレコード会社、ユニバーサル・ミュージック・グループの登場だ。UMGは3月、保有するSpotify株を現金化する場合は、必ずアーティストに分配することを約束した。だが、具体的な方法についての詳細は明言しなかった。

テイラー・スウィフトはそこを突いてきたのだ。

業界内で囁かれている噂によれば、三大レーベルはどこもスウィフトとの契約を狙っていたらしい。SpotifyやApple、そのた大手携帯会社もまた、たとえどんな犠牲を払っても、彼女と直接なんらかの提携契約にこぎつけたいともくろんでいたようだ。

彼女が今回提示した返済不要のSpotify条項こそ、彼女がユニバーサルと契約した最大の理由だ。UMG関係者筋から、今週こんな話を聞いた。「Spotify株価の分配に合意させ、しかも返済不要という形でアーティストに還元すると確約させることが、テイラーにとって最大の重要事項だった。交渉でもとくにこの点を力説していたよ。ユニバーサルもすでに覚悟を決めていた。とくに、今年初めにソニーが前例を作っていたからね。話は早かったよ」

さらにその人物は続けてこう言った。「もちろん世間は、結局は契約金を一番多く払えるのはどこかによるだろう、と推測するだろうね。でもそうじゃないんだ。金は金だし、テイラー・スウィフトは大金に値するアーティストだ。だけど、そのことと今回の彼女の決定とは、まるっきり関係ないんだよ。

つまるところ、彼女はアーティストに理解を示してくれるレコード会社を望んでいたんだ。アーティストへ還元することに誠心誠意向き合ってくれて、しかも今後大きく成長し、彼女のブランドを世界規模で保護してくれる、信頼できる会社を望んでいたのさ」

数字を細かくみていくと、スウィフトのSpotify条項がいかに重要な意味を持つかが見えてくる。そして、こうした手段に訴えることで、彼女が自分の分け前よりも、どれほど仲間たちに恩恵をもたらしたのかもわかってくるだろう。

Translated by Akiko Kato

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