コモンが慰問ライブを続ける意味とは? 米国最大の女子刑務所で見たもの

コモンのパフォーマンスが、米国最大の女子刑務所の受刑者に喜びと希望をもたらした。(Photo by Sadé Clacken Joseph)

これでもかと言わんばかりに、体育館の床が今いる場所を主張する。学校やスタジアムで見るようなカエデの木板やゴム張りの床ではなく、ここのバスケットコートはコンクリート製。ゴールラインの端から端までチョークの線が長く伸びている。その無気質な感触が、懲罰という言葉の意味を思い起こさせ、胸が痛くなる。だがそれでも、ここは施設の中でも一番心休まる場所なのだ。

円形に並べられた折りたたみ椅子に座る女性たちは、みなブルー系のシャツを着ている。それとは対照的に、周りを取り囲むスタッフのユニフォームは鮮やかな赤。NPO団体Anti-Recidivism Coalition(反常習犯罪同盟)のメンバーは大半が男性で、囚人たちの間に散らばって座っている。会話の内容と同じくらい、表情も陰鬱だ。中には「Hope for LWOP―仮釈放無しの生活を」と書かれたステッカーを肩のあたりに張っている者もいる。我々が座っているのは、カリフォルニア州中央女子刑務所(CCWF)の中。アメリカ最多の受刑者数を誇る女性専用の刑務所だ。

突如、笑顔が広がった。きっかけはコモンだ。体育館の中に入ってきたラッパー兼俳優は、刑務所の「住人」一人ひとりに挨拶した。CCWFでは、ここで刑期を務める女性たちをこう呼んでいる。10月某日、3日間にわたる刑務所コンサートの3日目。彼が2年間にわたって行ってきたHope & Redemptionツアー第2弾も、ここで幕を閉じる。ただし、女性刑務所でのコンサートは今回が初めてだ。

「ここにいる人々は、社会で全く相手にされてこなかったんだと思う」。ローリングストーン誌の取材で、なぜ収監された囚人たちのためにパフォ―マンスするのか、と聞かれたコモンはこう答えた。「彼らは確かに罪を犯したけれど、生まれたときからつまはじきにされ、自分たちは人間以下だと思い込まされてきたんだ。俺自身、カリフォルニア中の刑務所や(イリノイ州の)クック郡の刑務所をまわって、素晴らしい心の持ち主と大勢出会ってきた。みんなとても聡明で、感受性も豊かだったよ。『ああ、見放されている人たちがいるんだってことを世間に知らせなくては』って思った。彼らは罪を犯した、中には暴力的な罪を犯した者もいる、でも俺たちは本当の意味で赦しを与えていない」。そういう考え方が暴力をはびこらせることになる、と彼は付け加えた。

車座が広げられ、コモンの席が作られた。今日、自分は話をする側ではなく、話を聞く側だとコモンが告げる。「重要なのは、あなた方は忘れられていないんだと伝えることだと思う」とコモン。「俺たちがここに来たのは、あなた方の話を聞きたいから。どうすれば助けられるか、知りたいんだ」

Translated by Akiko Kato

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