スティーヴィー・ワンダーの名曲を彩った巨大シンセサイザーの物語

スティーヴィー・ワンダーの伝説的なアルバムや70年代のヒット曲で使用された巨大なシンセサイザー、TONTO(Photo by Brandon Wallis)



「TONTOを使いたいと思う人がいるのか? 1970年代に作られたアナログ・シンセを使いたいというのか? 同じサウンドを作れるラップトップがないのか? 同じ機能を持つiPhoneがないのか?」と、NMCの音響マネージャーのジェイソン・トーキンが芝居がかった言い方で問う。そして「その答えはイエスだ。TONTOと同じような機能を持つアプリをデジタル機器で使うことができる。しかし、初期のアナログ・シンセは今でも生き続けているんだ。このコンポーネントは45年間も回路に組み込まれているもので、当然風化しているし、経年変化もある。それが逆にサウンドに特別な何かをもたらすわけだ。不安定だからこそ、そこにオーガニックさがあるからこそ、アナログ・シンセのサウンドにはデジタルの模倣では実現できない音の忠実性を感じるんだ」と説明する。

マルコム・セシルはTONTOの終の棲家を見つけることを諦めなかった。スミソニアン博物館はコレクションの一つとして獲得することに興味を示したが、展示の約束も、現代のミュージシャンたちによって使用される約束も保証しなかった。この2点はセシルの必須条件だ。個人コレクターでTONTOを欲しがった人もいたが、セシルは19世紀に誕生した史上初のエレクトロニック楽器テルハーモニウムとTONTOが同じ運命を辿ることを懸念した。テルハーモニウムは創作者の相続人によって分解され、パーツごとに売られてしまい、その結果、姿を消してしまった。

そして2013年、カルガリーのナショナル・ミュージック・センター(NMC)はTONTOが売りに出されていることに気付いた。NMCでは楽器やサウンド・レコーディング機材を「実際に使用するコレクション」として展示の呼び物にしている(ローリング・ストーンズのモービル・スタジオなどもそうだ)。これらの楽器や機材は確実に使用できる状態でなくてはならず、未来のアーティストたちがこのテクノロジーを使って作業し、彼らの音楽にこのサウンドを取り入れられることを目指しているのだ。

NMCの名物シンセ・リストアラーのジョン・レイムジダーはここ4年間をTONTOの修復に費やし、1000以上のジャックを交換し、世界中からレア・モジュールを集めた。しかし、誕生から半世紀経って、やっと終の棲家を見つけたTONTOに悲しいニュースが待っていた。今年の9月、リストアを終えた直後にレイムジダーが66歳で他界してしまったのである。これはTONTOウィークが始まる2週間前のことだった。

イベントでは、NMCのレジデンス・アーティストであるカナダの先住民族グループA Tribe Called Redが、セシルとともにTONTOを使って新たな音楽を作る。レイムジダーの不在でTONTOの動作に神経質になっている同グループのティム・“トゥールマン”・ヒルが言う。「それがTONTOってものだよ。予測不可能で、人間的な感覚。だから存在感があるんだよ」と。




Translated by Miki Nakayama

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