スティーヴィー・ワンダーの名曲を彩った巨大シンセサイザーの物語

スティーヴィー・ワンダーの伝説的なアルバムや70年代のヒット曲で使用された巨大なシンセサイザー、TONTO(Photo by Brandon Wallis)



このレコード・プラント自体が70年代ロサンゼルスの“セックス・ドラッグ・ロックンロール”というイメージの立役者だ。セッション中の密会に使われた有名なジャグジー、すべてのスタジオのコンソールに置かれた新品のカミソリ刃とピカピカの鏡、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」のモデルと噂されたスタジオの奥にあるホテル。そんな70年代をスティーヴィーはレコード・プラントで過ごしたのである。

その間に彼はスタジオの食堂にあったエアー・ホッケーをマスターした(これがきっかけで、スタジオ従業員はスティーヴィーは本当は目が見えるのではないかと疑い始めた)。そして彼のスタッフは「何も問題がないように振る舞ってくれ」と書かれたTシャツを着て、スティーヴィーの奇妙な行動を謝罪していた。マーゴーレフの記憶では、彼らが作業するのは常に夜間で、その作業時間は常軌を逸していたという。「みんな、スティーヴィー時間で動いていたのさ」と。



しばらくの間、ロサンゼルスのレコード・プラントはモータウンとR&Bコミュニティのたまり場となり、TONTOはクリエイティヴな呼び物として常に人気の的だった。クインシー・ジョーンズがアルバム『Body Heat(原題)』を作ったのはTONTOの横のスタジオCだった。また、スティーヴィーはミニー・リパートンのアルバム『Perfect Angel(原題)』の作業をここで行った。このアルバムにはヒット曲「Lovin’ You(原題)」が収録されている。さらに、当時スティーヴィーと結婚していたシリータ・ライトの複数のアルバムもここで制作した。さらにルーファス&チャカ・カーンに提供した「Tell Me Something Good(原題)」を含む複数の楽曲をここで作った。

ダイアナ・ロスとディオンヌ・ワーウィックのレコーディングでは、TONTOの超自然的なテクスチャーをサウンドに加えた。一方、この時期にスティーヴィー以外でTONTOのサウンドの限界を押し上げた人物はアイズレー・ブラザーズだ。彼らはヒット曲「That Lady(原題)」でマーゴーレフとセシルを起用している。当時マーゴーレフとセシルはスティーヴィーの『インナーヴィジョンズ』を同時進行で作業していたという。「神のご加護があったのさ。あれは本当に素晴らしい時期だった」と、マーゴーレフが回顧する。

同じ頃、TONTOはハリウッドでの注目度も上がっていた。TONTOとレコード・プラントのスタジオBは、1974年のブライアン・デ・パルマ監督のカルト映画『ファントム・オブ・パラダイス』の主要シーンで幾度となく登場し、フィル・スペクター風のプロデューサー(ポール・ウィリアムズ)が苦悩するファントム(・オブ・ロック・オペラ)を監禁し、薬漬けにしてロック・カンタータの完成を強要する。カナダのウィニペグで毎年ファントムパルーザを主催し、Facebookの公式ページも運営するロッド・ワーケンティンを始め、この作品のファンにとって「TONTOは映画のもう一つのキャラクター」らしい。この作品のストーリーでファントムが作ったカンタータはプロデューサーに盗まれる。それに同調したわけでもないだろうが、セシルは映画音楽に貢献するという約束を実行できなかったため、この映画でのTONTOの使用料を一度も支払われていない。

Translated by Miki Nakayama

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE