BTSとのコラボでも注目、スティーヴ・アオキが「EDM以降」の時代に生き残れる理由

だがその前に、まずはレコーディングが勝負。これほどまでにバックグラウンドが異なるアーティストたちと組む場合は、特に手がかかる。「(駆け出しの頃の)あの当時を思い出すね。(コラボレーションしたいと思う)アーティストが目の前でカウチに座っていて、『おお、それ面白いね』って言うんだけど、実は気に入っていないのがわかる。だから、4曲ぐらい聴いたころには相手も居眠りする始末さ」と、アオキは当時を振り返る。「で、俺は『おいおい、最悪だぜ』ってなる」

「プロデューサーの役割は、技術的な能力だけじゃない。アーティストの為にエネルギーを作り出すのが仕事なんだ」とも付け加えた。「エネルギーを注入することで、彼らはレコーディング・ブースに意気揚々と入って行き、いいアイデアをひねり出せるようになる」。コラボレーションの度に、事前に計算しておかなくてはならない。「1+1=2になるか? それとも、1+1=100になるか?」

アオキは真面目で、熱しやすいタイプ。いつもたいてい「1+1=100」に向かっていこうとする。一連のアルバム・シリーズの最新作『ネオン・フューチャーIII』もしかり。このシリーズは、「自分たちがテクノロジーの発達途上にいる、という考えを軸に、サイエンス・フィクション上の概念だったものが現実になるのを目の当たりにするところまで、意識を昇華させる」というものだ。

彼は「テクノロジーの未来には楽観的」であるため、彼の作品の多くは「人工知能が人間を奴隷化し、我々の仕事を奪う」という考え方に異を唱えようとする。その目標達成のために、アオキはサイエンス・ガイことビル・ナイ博士のような人物とも接触する。『ネオン・フューチャーIII』のラストトラックでは機械的なビートノイズをバックに、博士が第18族元素について延々と語る。「俺たちはみな、ビルを通して科学を習った」とアオキ。「彼は科学を目に見えるわかりやすい形で教えてくれる。ビビらせるんじゃなくてね。俺が『ネオン・フューチャー』シリーズでやりたいのも、本質的にはそういうこと。人々を怖気づかせたり、萎縮させるんじゃなく、手に届くものにしたいんだ」



自らのメッセージを人々に届けるには、より幅広い層に呼びかけなくてはならない。だがストリーム全盛期の今、エレクトロミュージックはヒップホップやレゲトン、K-POPほど、化学反応に富んだジャンルではない。「ストリーミングが骨格だとしたら、筋肉をつけるのに必要なのはラジオ。僕らにとって、ラジオがプロテインなんだ」

これこそ、彼のコラボレーションが花開く場所。ニッキー・ジャムと組んだ「ハレオ」、ダディー・ヤンキーとエルヴィス・クレスポと組んだ「アズキータ」で、アオキは今年、手始めにラテン系ラジオ局からヒットを飛ばした。本人は、スピード感たっぷりのブリンク182とのコラボ曲「ホワイ・アー・ウィー・ソー・ブロークン」も「キッカケが見つかれば」と期待している。現時点でのヒット最有力候補は、BTS初のフル英語曲「ウェイスト・イット・オン・ミー」だろう。

アオキが手掛けた一連のBTSとのコラボ曲は、商業面以外にも大きな意味を持つ。「自分がティーンエイジャーだったころ、アジア系で1人際立っていたのがブルース・リーだ」とアオキ。「なぜ他のアジア系の人々が出てこないのか、不思議だった。でも今じゃ、7人の韓国の若者と1人のアジア系アメリカ人が、いままで感じたことのないパワーと影響力で(全米のアジア系を)代表しているんだ」

『ネオン・フューチャーIII』でアオキが手をつけなかったジャンルを挙げるのは難しい。だが、仮に「ウェイスト・イット・オン・ミー」がヒットしなくとも、彼の耳は既に別の方向へ向かっている。「ブラジルのファンク・ムーブメントにはまってる。それと(ナイジェリアで)今盛り上がっているアフロビート・サウンド。あとはソカだね」とアオキ。「ワオ、こんなの聴いたことないよ、絶対聴かなきゃ! っていう感覚がほしいんだ」



Translated by Akiko Kato

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