『ウォーキング・デッド』リックとの別れ、共に歩んだ8年間

ウォーキング・デッドは、”人気で高い評価を受けているホラードラマ”として、人々が見逃したくないと思わせる社会現象にまで成長した。リンカーンとリック・グリムスは初期の数シーズンにまさに必要であった人物だ。このドラマは開始してからシーズン4でスコット・M・ギンプルがその舵を安定させるまで、3シーズンで2人の製作総指揮者が入れ替わるという舞台裏の問題を抱えていた。その一方で、この保安官代理を現実主義で心やさしいヒーローに描いた原作コミックの作者ロバート・カークマンのコンセプトを引き継ぎ一面的ではない哀愁漂うキャラクターにその責任者たち全員が頼りきりだったのだ。

リーダーシップを取ることに対し精神的葛藤を抱えていた時ですら(シーズン2と3の大半でそうであったが)リックは共感できる主人公であった。彼はただ息子のカールと後の養娘ジュディスを愛する男だったのだ。彼の生存者グループが住める場所を求めて不死身の敵を退治しながら南部地域を旅しても彼はいつも新しい状況に適応してきた。時には遅すぎることもあるがそれでも確実にしてきた。リックはウォーキング・デッドの中心だったのだ。

だがけっしてリックは指導者ではなかった。脚本家たちは、本当に伝えたいストーリーはゾンビパニックが起きた後の文明社会の再建についてではなく「1人の男の成長について」であるという考えに基づいて正解のないクリエイティブな決断をしていたので、最初の数年ですでにファンたちにはこのドラマにおいての“リック問題”の兆候が見えていた。関心を集めるためにかつては魅力的でまっすぐな“善人気取り”の男は徐々に気難しくなりモラルから外れていったのである。危機を救うために白馬に乗って町にやって来たヒーローは愛することが難しい存在になってしまった。彼はテレビのアンチヒーローになったのだ。

さらに刀を振るうミショーンやクロスボウの達人ダリル、心優しくて有能なグレン、情け容赦ないキャロル、威厳のあるエゼキエル王がいるおかげで、どのエピソードを見ても彼らなくしてリックが最もかっこいいキャラクターであることはほとんどなかった。効果的なタイトルを付けられたら昨晩のエピソード『清算(原題:What Comes After)』の終わりで、脚本家のギンプルとマシュー・ネグリートが、リックが爆発を引き起こした(みんなはリックがそれによって死んだと思っている)場面でウォーキング・デッドの生き残っている主要キャラクターのほとんどが集まるようにしたことは(ストーリーの流れ的にはあまり自然とは言えないが)注目すべき点である。このことはリンカーンがドラマに込めた思いを考えると少し配慮に欠けている。しかしそれは視聴者にこのドラマのキャラクターたちの層がいかに厚いかを思い出させるための方法でもあるのだ。

Translated by Takayuki Matsumoto

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