マジックマッシュルームがうつ病治療に効く?「幻覚剤ルネッサンス」の到来

コンパス社の研究が成功すると、治療の効果がないうつ病患者や従来の抗うつ薬に反応しない患者の治療薬としてFDAがシロシビンを認可することになるだろう。同社が画期的治療薬指定を受けた理由の一つは、アメリカ国内で新たなうつ病治療が早急に必要だという現実がある。

1600万人のアメリカ人がうつ病に苦しんでいて、そのうち約3分の1が従来のうつ病治療薬に反応しない。そして、うつ病は世界中で異常発生しており、世界規模の患者数は3億人と言われている。

シロシビンは、死への不安を抱える末期がん患者のメンタルヘルス治療で効果があると、既に実証されている。ジョン・ホプキンス大学、ニューヨーク大学、UCLAの3校はこれまで治験を実施しており、行うたびに多数の患者のうつ症状や不安が減少するという結果を得ていて、たとえ不安がすべて解消されずとも、トリップしている間に体験したことを、第一子の誕生と同じくらい人生の中で最も意味のある体験だったと評価する患者が多いという。

コンパス社はこの3校の試験のデータとそれ以外の研究データを提出してFDAから承認を受けた。しかし、これらの試験データは末期がん患者の終末治療の一環として行われたメンタルヘルス治療試験での結果であるため、治療薬が効かない一般的なうつ病患者への効果は未知数だと、研究者は慎重になっている。
これまで行われた試験の中で唯一前途有望なものは、2015年にインペリアル・カレッジ・ロンドンで実施された従来のうつ病治療薬に反応しない患者を対象に行われた試験なのだが、試験対象者がたった12人だった。

コンパス社はこの状況を早急に変える意思が強く、これまで幻覚剤研究の分野では前例のない成功を収めている。次回の試験では216人の参加者を募るという。同社はイギリスとオランダに研究所があり、シロシビンの処方薬としての認可をヨーロッパで得ることも視野に入れている。また、同社はピーター・ティール、マイケル・ノヴォグラッツなどの大富豪の支援を受けており、このことが研究者たちに幻覚剤が表舞台に登場した事実を実感させるという。

アメリカ国内で昔からある幻覚剤(MDMAはその中に含まれない)の治療薬利用を研究している団体は、非営利研究機関ユソナ・インスティチュートぐらいだろう。彼らもシロシビン試験の許可をFDAから受けており、シロシビンが従来のうつ病治療薬に反応しない患者のみならず、すべてのうつ病患者に投薬できる承認を得ることを目標にしている。MAPSのドブリンは、コンパス社が得た画期的治療指定は、ユソナやシロシビンの認可を求める人々にとって大きな力になると言う。

コンパス社がFDAから認可を得たことによって、今後の研究への承認を受けやすくなったというのが幻覚剤研究コミュニティの総意だ。コンパス社が今後も成功し続けて、うつ病治療薬としてシロシビンが認可されることになれば、「承認適応症外」の処方も可能になってくるとドブリンは予測する。つまり、この薬が有効だと医師が判断した場合にその治療薬として処方できるようになるということだ。そうなると、研究目的のために行われたシロシビン研究の結果が、タバコやアルコールの中毒症状などの治療薬としての認可を得るためのデータとしても利用されるだろう。

少なともここ10年間、幻覚剤研究の先駆者たちは許可されたとはいえ、その研究を認められず、いずれは自由に研究できなくなり、自分のライフワークから手を引くときが来るという恐怖を感じながら研究を続けてきた。しかし、彼らはもう後戻りできない地点まで到達し、連邦政府もその研究の価値をやっと認めたのである。

Translated by Miki Nakayama

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