ブロードウェイの舞台にキングコングが出現

ニューヨークのブロードウェイ・シアターで上演中のミュージカル『King Kong』(Photo by Matthew Murphy)

米ニューヨークのブロードウェイ・シアターで上演中のミュージカル『King Kong』が賛否両論を呼んでいる。

同作品のメイン・アトラクションは高さ6メートル、重さ900キロのキングコングのパペットだ。観客を驚かせようとオーストリアから運搬されたこの巨大セットが観客を失望させることはないだろう。

批評家たちは間違いなくミュージカルの伝統の死を嘆き悲しむことだろう(いつも通りだ)。なぜなら、ブロードウェイという神聖な場所にキングコングが登場するのだから。彼らは広い観客にアピールしようとする大胆なアイデアが実現されるたびに嘆いてきた。

今回も例外ではない。ディズニーの侵略に続き、今度はユニバーサル・スタジオが介入してショップまで併設したことを鑑みると、批評家の懸念はあながち見当違いとも言えない。タイムズ・スクエアは、アトラクションからアトラクションへと歩きまわることができるのだ。

ニューヨークの大恐慌時代を舞台にしたこのミュージカルは、その楽曲や歌詞が観客を明るくしたり、元気づけたりすることはない。ミュージカル作品だからと言って、観客を刺激する必要はないのだ。言及できる唯一価値のあるキャラクターは、名ばかりのスターであるキングコングだろう。しかし、彼がメロディに合わせて大声で歌を歌うことはない。そのため、才能溢れた出演者たちが観客に背を向けて無心に演じる間、コング同様に観客側の我々も次のサプライズや感動を待ちわびることになる。

ステージの頭上でコングが最初に牙をむくとき、影の中から姿を現す様子は確かに怖い。また、ステージが登場人物たち全員を髑髏島に運ぶ船となる場面をはじめ、小粋な演出シーンはいくつかあるが、最大の見所は毛むくじゃらの巨大な野獣のパペットがかっこよく登場する場面だ。


Photo by Matthew Murphy

ブロードウェイでこれほど素晴らしいパペット操作が披露されたのは、『ウォー・ホース〜戦火の馬〜』以来である。この作品も豪華なプロダクションで、このときの主役は少年と馬だった。この作品では南アフリカに拠点を置くハンドスプリング・パペット・カンパニーが、ほぼ骨組みだけのパペッツに命を吹き込み、舞台を小走りさせ、いななかせた。一方、当然のことだが、コングは優雅な馬とは全く異なる。

コングはモンスターに近いだろうが、巨大なクリーチャーが唸り声をあげ、鼻を鳴らす姿を見ると、何とも言えない新鮮な感覚を覚えるのは確かである。CGIの魔法にまみれている私たちは、ライブ・エンターテイメントという状況で恐怖の身震いを感じたいと思ってしまうのだ。その点が、舞台作品としての『King Kong』を完全に無視できない理由でもある。



Translated by Miki Nakayama

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