CDアルバムは絶滅してしまうのか? 売上減に響く「アルバム相当単位」の影響

同じことは、今年の上半期最大のヒット作、ポスト・マローンの『ビアボングズ&ベントレーズ』にもみられる。アルバム収録中たった3曲(「ロックスター」「サイコ」「ベタ・ナウ」)で、全世界のSpotifyストリームの62パーセントを独占した。

これまでもそうだった、と人は言うだろう。ひと昔前の音楽ファンも、アルバムを購入したらまず一通り全部聴いて、その後お気に入りの曲を何度も聴き直し、他の曲はゴミ扱いして見向きもしなかった、と。

加えて、ストリーミングはアルバムにとっても好都合だという意見もあるだろう。Spotify経由なら、無理をしてCDやダウンロードに高い金を支払わずとも、世界中どこでも誰でもアルバムを合法的に聴くことができる。もし、どうしてもアルバムを全曲通しで聴きたくなるような工夫があったなら、2018年のCD・レコードセールスも健闘したはずだ。

だが、音楽業界の構造は確実にアルバムCDの解体を促している。世界でもっとも権威のあるアルバムチャートとして現在も機能しているビルボード200でさえも、2014年12月以降はアルバム収録曲1曲ごとのストリーム件数を合算して、「ストリームのアルバム相当単位」として換算している。これぞまさに、ビルボードで今問題になっている計算方式だ。つまり、Apple MusicやSpotifyプレミアムなどの有料サービスのストリーム1250件に対し、アルバム1枚分のセールスとして換算する。YouTubeや無料版Spotifyといった広告付きストリームの場合は、3750件につきアルバム1枚としてカウントされる。

これにより、奇妙な現象が起きた。ドレイクの『スコーピオン』を例にすると、リリース第1週のアルバムセールスは16万ユニット(サイトからのダウンロード経由)。だが、ビルボード/ニールセンによれば、「ストリームのアルバム相当単位」はこの3倍以上(55万1000ユニット)だった。

『スコーピオン』2週目のアルバムチャートの結果は、「ストリームのアルバム相当単位」が抱える欠陥が露見した。iTunesでは2万9000枚(実際に売れた枚数)のセールスを記録したが、このおよそ10倍の「アルバム相当単位」が(28万8000ユニット)、1曲ごとのストリーム件数の合算でもたらされた。

『ビアボングズ&ベントレーズ』および『スコーピオン』収録曲のSpotifyストリーム件数


音楽業界は存続の危機を迎えている。そこで問題になるのは、あるもの(ストリーミング)で別のもの(アルバムセールス)を置き換えることなどできるのだろうか? しかも、自分たちの勝手な都合で、前者が後者を完全に食ってしまったというのに?

2018年、「ストリームのアルバム相当単位」は笑い種だ。いってみれば、eメールのファックス相当数。自動車の台数が馬何頭に相当するかを換算するようなもの。Netflixの視聴者数をベータービデオ本数に換算するようなものだ。

アルバムそのものが死に絶えることはなくとも、アルバム収録曲の死は商業面で大きな影響を及ぼしている。

ルーカス・ケラーはロサンゼルスに拠点をおくMilk & Honey社の創業者。現代の音楽業界で裏方として活躍する、第一線のソングライターやプロデューサーたちをかかえるマネージメント会社だ。彼は今週Music Business Worldwideのインタビューで、同社の所属タレントがヒット曲以外のアルバム収録曲で十分稼げる時代は「完全に終わった」と語っていた。ケリー曰く、「ダッシュボードに、所属タレント全員のセールスの数字を広げてみると、アルバムの9番目の曲が一番儲けが少ないってことがわかったよ」

音楽業界もこの事実に気づき始め、影響を最小限に食い止めようと躍起になっている。10月13日、イギリスの音楽業界は結束して、ナショナル・アルバム・デーという全国キャンペーンを立ち上げた。

これは非常に思い切った行動だった。大手レーベル(英国レコード産業協会の呼びかけによる)、インディーズレーベルも(AIM:ロンドン中小企業対象株式市場経由)、オフィシャル・チャート社、それにイギリスの音楽販売店全店が、一斉に立ち上がったのだ。同じく賛同メンバーとして名乗りをあげたBBCラジオでは、全チャンネルで1日中このニュースを取り上げた。

そもそもの発端は、アメリカとイギリス両国で、CD・レコードセールス向上のために毎年恒例で行われているキャペーン、レコード・ストア・デイにあやかろうというもの。さあ、果たしてその結果はいかに?

人々の努力の甲斐もむなしく、ナショナル・アルバム・デーが行われた週のイギリスのアルバムセールスは、わずかながら減少した。

ダニエル・エクが4年前に予測した通り、世間は明らかにプレイリスト主導、楽曲切り売りの聴き方にすっかり慣れ親しんでいる。だが音楽業界は、本当にそうなのだろうかと疑問を抱き始めている。

Translated by Akiko Kato

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