Reiが考えるクリエイティヴの理想形「ミュージシャンズ・ミュージシャンで終わるのは絶対に嫌だ」

1stアルバム『Rei』を発表したRei

3部作のミニアルバム『BLU』『UNO』『ORB』、2部作の『CRY』『FLY』と、まるでカウントダウンのように作品を出し続けていたシンガーソングライター/ギタリストのReiが、満を持してセルフタイトルの1stアルバム『REI』をリリースした。

本作にはKenKenやちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)、CHAIら豪華ゲストが多数参加。まるで拡張した身体の一部のようにギターを操り、数々のセッションを繰り広げてきたReiに対し、各々が最大限のリスペクトを持って本作に貢献しているのが印象的だ。

ブルースやクラシック・ロックに精通し、コアな音楽好きを唸らせ続けてきたRei。しかし、当の彼女はその「居場所」に安住することなく、スクラップ&ビルドを繰り返しながら新たなフェーズへ向かおうとしている。

レーベルを移籍し、より多くの人へ自らの音楽を届けようとしている彼女に本作の制作エピソードを聞きつつ、インタビュー後半では「ギターの聴こえ方、捉え方を変えた作品5作」をセレクトしてもらった。

─デビューしてから3年、満を辞しての1stアルバムですが、本当に素晴らしい内容でした。

Rei:うれしいです、ありがとうございます。今作は、これまでやりたかった曲調やアレンジメントを、たくさんカタチにすることが出来ましたし、「万華鏡のように彩り豊かなアルバム」という裏テーマにも沿った、満足のいく仕上がりになったなと思います。

─参加ミュージシャンもとても豪華ですよね。皆さん、本当にReiさんに最大級のリスペクトを表明していて。まさにミュージシャンズ・ミュージシャン的存在に、早くもなってきているように思います。

Rei:もしそうだったら本当に光栄です。これまでたくさんの音楽を聴いたり演奏したりしてきたミュージシャンに認めて頂けるということは、とても大きな意味を持ちますし。ただ、そこには少し複雑な気持ちもあって。「ミュージシャンズ・ミュージシャンで終わってしまうのは、絶対に嫌だ」とも思っています。ミュージシャンだけでなく、たくさんの人に聴いてもらえる音楽を作っていきたいですね。

─とても頼もしい言葉です。特に、同世代のリスナーに届けるために工夫していることとかありますか?

Rei:「誰にどう届けたいか?」ということを、あまり強く意識しすぎるとクリエイティヴィティに支障が出てきちゃうタイプなので、作っているときにはそこはあまり意識しないようにしています。ただ、今回セルフタイトル・アルバムで、自分のことをたくさん見つめる中、「こういう部分は好きになれないな」とか、「変えていきたいな」という部分と向き合うことが多くて。その作業はとても苦しかったんですけど、そういう「嫌いな部分」を自分で受け入れることが出来れば、より強くなれるということに気づけたんです。それを少しでも作品の中に投影して、自分と同世代の人たちに伝えられたらいいなとは思いました。

─特に、そういう内面を正直にさらけ出せた曲というと?

Rei:どの曲も、いろんな意味でさらけ出せてはいるのですが、「Silver Shoes」という曲は、一聴すると友達や家族、恋人に向けた曲のようで、「自分自身の幸せについて考えてほしい」という曲なんです。例えば私でいうと、もちろんオーディエンスやスタッフの方たちは大切な存在ではあるんですけど、それが自分自身の「面白いものを作りたい」という欲望を超えてしまうと、バランスがおかしくなると思うんです。

─「期待に応えよう」とか、「求められている音楽を作ろう」みたいに思い過ぎないことが大事というか。

Rei:きっとこれはいろんな人に当てはまると思うんですけど、一生懸命生きていく中で、自分以外の物事を優先してしまうことってあるじゃないですか。そういうときこそ、自分自身の幸せに立ち返ってほしいなという思いを込めたかったんですよね。

自分の幸せ」に立ち返るための秘訣とは?

─Reiさん自身は、「自分の幸せ」に立ち返るための秘訣ってありますか?

Rei:ちょっと関係ないかも知れないですけど、銭湯に行ったりします(笑)。それで「一旦忘れよう」って思いますね。めちゃくちゃな状況でも、そういうの忘れている時間を少しでも作ろうって。

─銭湯ですか、最高ですね!(笑) ところで「Clara」という曲に出てくるクララというのは、誰のことですか?

Rei:Claraは、私にとっては自分の中にいる、ギターを初めて持ったときの幼い少女のことなんです。初心というか、ピュアな気持ちを忘れたくないという気持ちが年々強まっている中で、心の奥底にいる、楽しそうに歌いながらダンスしながらギターを持つ彼女を、殺してしまわないように生きていきないなと思って作った曲です。

─そういう感覚って、曲を作るときには常にあるものですか? つまり、「自分の中にいる幼い頃の自分」に向けて曲を書いているというような……。

Rei:ずっとテーマとしてあったと思います。この曲も、実は『BLU』よりも前に作っていて、レコーディングのたびに候補には挙がっていたんですけど、今回ついに収録できることになった曲で。常に挑戦する心や貪欲さを持ちつつ、驕らず冷静に自分の足で立ち、自分の実力で勝負していきたいという思いも込めた曲です。

─先行配信された「LAZY LOSER」も収録されていますが、Reiさんは自分のこと「怠け者」だと思いますか?

Rei:思っていますね。怠け者すぎて、自分でもがっかりすることが多くて……(笑)。

─本当に? 曲作りもギターの練習もストイックにされている人なのかと思っていました。

Rei:きっと、私のようなタイプは「怠け者である自分」を自覚した上で、「律して生きている」というか、そんな感じがします。自分の中に「弱い部分」があると分かっている人こそ、表向きはちゃんとしているのかなって。「Lazy Loser」は、ダラダラしちゃっている人に「やる気出していこうぜ!」って叱咤激励しつつ、あまりにも自分を真面目に追い詰めちゃっているような人に対しては、「怠け者な部分は誰にでもあるし、許してあげるときがあってもいいじゃん?」っていう、両方のメッセージを入れた曲なんです。

─なるほど。歌詞に出てくるような、“やるやる詐欺”や“三日坊主”にならないための、Reiさん流の秘訣ってありますか?

Rei:何か、小さなご褒美を自分に与えるのはいいかも知れないです。私だったら「いついつまでに頑張ったら、ミニカーを一つ買っていい」とか、「欲しかったお洋服を買う」とか。ただ洋服の場合、行ったときにはなかったというオチもよくあるんですけどね(笑)。

─確かに(笑)。あと、「Planet」に出てくる“alien”は、Reiさん自身のことなのかなと思いました。海外に長く住んでいて、日本語でのコミュニケーションがうまくいかずに悩んでいた時期があったと以前話してくれたことがありますが、そんな「孤独」や「疎外感」について歌っているのかなって。

Rei:おっしゃるように、この曲は「孤独」について歌っています。誰もがこの歌詞のエイリアンみたいな気持ちになったことがあると思うんです。例えば、虐められたとかそういう直接的な体験ではなくても、漠然と疎外感を感じて、ものすごく心細くなることってあるじゃないですか。人間って結局は、「孤独の集合体」というか……。それぞれが持っているモノをシェアしたり、あるいはぶつかり合ったりしながら成り立っているんじゃないかと。そんなことを考えてみたくて書いた曲です。

─シンガーソングライターとしてデビューして、ミュージシャン仲間が増えたり、セッションする機会や場所が増えたりしたことで、以前よりは孤独を感じることも少なくなったのではないですか?

Rei:うーん……残念ながら、それはないですね。むしろ居場所が定まってしまったり、自分のスタイルが固まってしまうことへの「恐怖」みたいなものを感じるというか。「なんだか固まってきたな」と感じるようになったら、それを壊したくなるかもしれないです。

─そうか。スクラップ&ビルドを繰り返すことは、アーティストとしては健全なのかも知れないですね。

Rei:どうでしょう(笑)、いろんな考え方がありますからね。「変化」というのは、やはり心への負荷が大きいし、特に表現者の場合は変化したときにどう受け取られるかを気にしちゃうと思うんです。でも、そのことを恐れず進んでいくからこそ、エンターテイメントなのかなと。

─最後のインスト曲「before sunrise」も、とてもいいですね。

Rei:この曲は、自分の原点に帰る意味も込めてクラシックギター1本で演奏しました。私はよくギターと「2人きり」でステージに立ったり、お部屋で音楽を奏でたりするというところから始まっているので、そこに立ち返る意味も込めましたし、一方で「夜明け前」という曲名をつけて、「ここからまた歩き出そう」というはじまりの曲でもあります。

─ちなみに、リチャード・リンクレイター監督の同名映画の世界観に、とても合う曲だなと思ったのですが、意識しました?

Rei:それ、よく聞かれるんですけど全然意識してなくて。むしろ、「Blues Before Sunrise」というブルーズ曲があって大好きなんですけど、そちらの影響の方が強いですね。

ギターの聴こえ方、捉え方を変えた作品5作

─さて、ここでReiさんに「ギターの聴こえ方、捉え方を変えた作品5作」を紹介してもらいたいのですが。

Rei:まずはライ・クーダー『Into the Purple Valley』です。彼はスライドギターが素晴らしくて。映画『パリテキサス』のサントラも大好きだったんですけど、『Into the Purple Valley』には色んなギターの音色が含まれていて。「ギターってこんなに色んな表情が見せられるんだ!」と思いました。単に上手いとか、旋律が美しいではなく「ライ・クーダーって、こういう人なのかな」と想像させてくれるような、不器用で愛くるしい感じが好きですね。



─ジャケットに車が写っていますが、Reiさんは車が好きなんですよね?

Rei:詳しくはないけど好きです。ただ、「車が好きですか?」と言われても、それって「人間好きですか?」と言われているのと同じというか……人間だっていろいろあるじゃないですか。

─あははは! 確かに。失礼しました(笑)。

Rei:(笑)。車では、例えばフランスのシトロエンの古い車とか、国産の軽トラ、3輪トラックとかが好きなんです。シトロエンは実家で乗っていたりするので気になってしまうし、軽トラは博物館に見に行ったりもしました。街中で赤帽とか見かけたら写真を撮るようにしていて、ミニカーは5年ほど前から集め始めました。

─車のデザインと、ギターのデザインって似ていますよね。カラーリングもフォルムも。

Rei:私はいつも、作品ごとにテーマのギターを決めているのですが、『REI』はファイヤーバードというジョニー・ウィンターが使っている有名なギターをテーマにしたんです。なぜかというと、もともとジョニー・ウィンターが好きだったのが1つ、それからこのギターのデザイナーがレイモンド・ディートリッチという人で。レイモンドの「レイ」と、アルバムタイトルの『REI』にちなんだのがもう1つの理由。で、この方は1920年代にアメリカのインダストリアル・デザイナーとして、主に車のデザインを手がけていたんです。

─そんなつながりが。

Rei:ええ。フェンダーの古いギターのカラーリングも、アメ車からきているといいますし、その辺のつながりは強いんじゃないかなと思います。あと、私はシェルピンクのジャズマスターをステージで使うことがあるんですけど、そのカラーリングも元々は、アメ車のカラーリングにインスパイアされたものなんですって。

─そうだったんですね。では、トミー・エマニエルの『Little by Little』は?

Rei:トミー・エマニエルは、オーセンティックなプレイスタイルでありながら、途轍もない技術力を持ったギタリストです。でもそういうのって、バランスがすごく難しいと思うんです。プレイヤーって、すごい技術を持つとつい歌心をないがしろにしてしまうというか。これ見よがしにテクニックを披露するとか……(笑)。でもトミー・エマニエルは、あくまでも曲を美しく聞かせるためにギターを使うことに徹していて。すごく純粋な人なんだろうなと感じます。



─Reiさんのギタープレイにも影響を与えていますか?

Rei:例えばピードモントやラグタイムと言われる、メロディが2声や3声に分かれるフィンガーピッキングのスタイルがあるのですが、トミーはそこから派生したようなスタイルのギターなんです。元々ラグタイムが好きな私としては、ドンピシャですね。たくさんカバーを試みました。

─続いてイエスの『Fragile』ですが、これは少し意外でした。

Rei:イエスは昔からすっごく好きで。ひょっとしたら、一番古くから好きかもしれないです。入り口は「Mood for a day」というクラシックギターの曲。実は本作の「before sunrise」にも影響を与えています。アルバムの中に、1曲だけポツンとこういう曲が入っているのは、すごく素敵だなって思うんです。そこからイエスを掘っていくようになりました。この『Fragile』は彩り豊かというのもありますし、「アナログシンセと生楽器の融合」という意味でも秀逸だなと思います。『REI』は、そういうところにもインスパイアされています。



プログレとジャズとフュージョンって、結構近しい関係だと思いませんか? 音色やアティチュードが違うだけで、音楽理論的にはかなり近いものがある。そういう意味で、プログレはジャズのような感覚で聴いています。

「何事も心が通い過ぎると、クリエイティヴィティに支障が出てくる」

─セイント・ヴィンセントことアニー・クラークは、最新作『Masseduction』をセレクトしたのですね。

Rei:ギターの使い方が、彼女はすごく特徴的です。ギターをギターとして使っていないというか……。実は私、このアルバムについてアニーに直接インタビューしたことがあるのですが、「ギターはあなたにとって、どんな存在ですか?」って尋ねたら、「パートナー」や「楽器」ではなく「ツール」と返ってきて。つまりパッドで打ち込みしたり、パソコンで文字を打ったりするような感覚でギターを使っているわけですよね。その自由な捉え方が、『Masseduction』の音使いにも反映されているなと思いました。



─以前、「ギターは相棒」と話してくれたReiさんからすると、アニーとは少し視点が違うなと感じます?

Rei:もちろん、ギターには人格を感じる人間ですが、一方でギターを「ツール」として使うときもあります。すごく感覚的な話になっちゃうので、共感してもらえるか分からないんですけど(笑)、何事も心が通い過ぎると、クリエイティヴィティに支障が出てくることがあるんですよ。例えば、周りのスタッフさんともあまりにも親しくなり過ぎて、全て思想が同じになってきたり、選ぶもののセンスが同じになったりしてくると、言い過ぎかもしれないですが、一緒にやる意味を考えてしまう。

─ああ、なるほど。

Rei:それと同じで、ギターと心を通わせ過ぎてしまうと、「ギターが気持ち良さそうに鳴っているな」と思うフレーズや音色ばかり弾いちゃうんです。「痛い!」とか「嫌だ!」とギターは言っているのだけど、それをあえて弾くこともときにはあって。不協和音もそうだし、無謀なフィンガリングなんかも、おそらくギター本人はすごく嫌がっていると思うんですよね。でも、そうした方がいいときもあるというか……。

─「そうしたほうがいい」というのは、「音楽にとって」ということですよね?

Rei:そうです。「ギターよりも、音楽を優先させる」みたいなことだと思うんですけど。私、あまりにもギターと長い時間を過ごしてきたから、そのギターが「どんなふうに弾かれたがっているか?」を感じるんです。

─なるほど。情が移っちゃうと、ギターをツールとして酷使しづらくなるわけですね。

Rei:そうなんです! (ギターに)「ごめんね」って思いながら弾くときもあるんです。

─(笑)。以前Reiさんは、「曲の中にあえてノイズや汚れを入れることで、美しくする」っておっしゃっていました。その考え方に、ちょっと近いのかもしれないですね。

Rei:その考え方は、今もすごく大事にしています。美しいものだけを並べて「美しい」とするのではなくて。

─そういえば『REI』の冒頭曲「BZ BZ」はどこかセイント・ヴィンセントっぽくもありますよね。

Rei:あ、確かに。おそらく彼女はギターにファズをかけていると思うんですけど、「BZ BZ」はファズっぽい歪みのギターをいくつか重ねがけしていて、そういうところは影響を受けているかも知れないですね。

─では、最後の1作は?

Rei:Naia Izumiの『Soft Spoken』。彼のことは最近知ったんですけど、NPRの「Tiny Desk Concerts」を観たときに「こんな複雑なギターを演奏しながら歌っておるのか!」と衝撃を受けて。CDで聴くと、全くスムーズで複雑さをあまり感じさせないんです。そこが類稀な存在だなと。



超絶技巧のギターを弾きながら歌っている人って、やはり聴いていても楽器に意識がいっちゃうことが多いんです。「どっち聴けばいいの?」と気が散っちゃうときもあったりして(笑)。でも、ナイアはまず歌が耳に飛び込んできて、でもよく聴くとギターがとんでもないことをやっているというバランスがいいなと。自分も、歌は邪魔せずギターはギターとして美しく聴ける音楽を理想としているので、彼の音楽にはすごく刺激を受けました。

─これだけギターのことを聞いておいてアレですが、Reiさんはギター以外の楽器をマスターするとしたら、何がしたいですか?

Rei:ドラムです。音程楽器は、バリバリ弾けなくても構造とか成り立ちとかわかるんですけど、打楽器は全く違うというか。例えばスパニッシュとイングリッシュとフレンチとかは、アルファベットで出来ているし、文法など「単語の並び」さえ分かれば何とかなるんですけど、ヒンディー語とかタイ語とかサンスクリット語とかだと全然わかんないですよね。そんな感じでドラムに魅かれます。

─レーベル移籍して、今後はどんな活動をしていきたいですか?

Rei:自分はニューヨークでギターに出会ったことが音楽の始まりだったので、欧米のCD屋さんやレコード屋さんに自分の作品が置いてもらえるようになりたいです。インターナショナルに活動が出来たらいいな、というのが、今のちょっとした野望です。

『REI』
Rei
ユニバーサルミュージック



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