破産寸前だった米大手楽器店の華麗なる復活劇

改装されたハリウッドの旗艦店の店内の一部(Photo by Guitar Center/Ryan Hunter)

先週末、ラッパーのアンダーソン・パークがサプライズライブを開催した。ライブ会場となったのは、なんとカリフォルニア南部のギターセンターだ。1959年創業、楽器専門の老舗チェーン店である。

アンダーソン・パークのライブには、ラジオパーソナリティのゼイン・ロウやDJ A-Trakをはじめとするアーティストや著名人が参加し、ハリウッドのサンセット大通りに居を構えるギターセンターのストア——オープンから30年以上を経て、500万ドルをかけて改装された——のリニューアルオープンをPRした。改装されたおよそ2千800平方メートルの店内には、全長4.5メートルほどのインタラクティブペダルのディスプレイ、エリック・クラプトンが愛用したフェンダーストラトキャスターの「ブラッキー」をはじめとする貴重なヴィンテージ楽器や記念品の専用スペースがあり、DJ機材、プロ向けオーディオ機器、家電などが並ぶ。しかし、今回のリニューアルオープンの目玉は華々しいセレブリティの存在ではなく、瀕死状態とまで噂されたギターセンターが音楽業界を再び支配するための意欲的な計画にある。

2018年4月までの調査報告によれば、ギターセンターは破産寸前だった。10億ドル以上もの未返済金が発生した上に、デジタル時代における楽器に対する消費者の興味の減少によって売り上げが急降下していた。

2016年にギターセンターの6代目CEOに就任したロン・ジャピンガは、実店舗による販売の未来に対して人々が抱いている懐疑主義のせいで、何年にもわたって同社の不振が誇張されてきたことをローリングストーン誌のインタビューで語った(アメリカ最大規模の小売店トイザらスが同時期に閉店したこともその流れに拍車をかけた)。それでも、同社がしかるべき改革を怠ってきたことをジャピンガは認めた。


ギターセンターのハリウッド店外でライブを披露するアンダーソン・パーク (Photo by Hadas)

「ギターセンターの業績が横ばいだった時期が数年あったと思います」。ジャピンガは言った。「その頃はどういうことがしたいのか、明確な方向性がありませんでした」。この1年間、幹部たちはメインとなる一つのアイデアのもとに団結した。ありとあらゆる方法で人々の音楽制作を手助けする、というこのアイデアはあまりにシンプルで明確だ。「このミッションに基づいてストアを改装しました。私たちの存在意義をはっきりと認識できたおかげで、この四半期の売り上げはとても好調です」。そう言いながら、借り換えや数カ月前からキャシュフローを黒字化できたことで、小売市場が停滞する現在においても「ほんとうの意味で転換点を迎える」ことができたと話を続けた。

ギターセンターが店舗にこだわる理由

ハリウッドの旗艦店のリニューアル——遠くからも目を惹く、数人のストリートアーティストによるジミ・ヘンドリックスの大きな壁画を掲げた堂々たる店構えだ——は計画の一環に過ぎない。ギターセンターは、その他の地域の店舗をリニューアルすると同時に、2018年末までに7つの新店舗をオープンする予定だ。それによってアメリカでの店舗数は約290に達する。高額なマージンや手頃なインターネット販売の影響で多くの小売業者が実店舗から離れるなか、ギターセンターは店舗数の増加にこだわり続ける。

なぜなら、そこにはある程度の必然性があるからだ。衣類や玩具のような商品が簡単にオンラインで販売できるのに対し、オンラインで楽器を売ることは簡単ではない。新しいキーボードの購入を検討している人は、実物を見たがる。その人がプロのミュージシャンであれば、なおさらだ。自らの手で鍵盤に触れ、その重みを感じ、メンテナンスや好みのリペアについて生身の人間と話したいと思うだろう。ギターセンターは今、「オムニチャンネル」というアプローチで勝負に挑んでいる。それは、数年前から店舗に導入しはじめた音楽教室などの実験的な試みを通してオンラインと実店舗の両方で消費者の興味を惹こうとしている。

一カ所ですべてが揃うという戦略は「Amazonが既に立証しています」とジャピンガは言った。複数領域での競争に参入することで、Amazonなどの巨大なシングルプレイヤーによって打ち負かされるリスクが減らせるのだ。さらにジャピンガは言った「誰もがギターセンターのストアにふらりと足を踏み入れだけで、誰かが弾くギターの演奏にドラマーやキーボーディストが加勢したり、さらには誰かが歌い出したりして店内でフラッシュモブのような体験ができることを理解してもらうのがとても重要です。とてもパワフルな体験です。誰だってショッピング中にそんな体験がしたいと思うでしょう。地域コミュニティに根付いた楽器店だからこそ、こうした心理がよくわかるのです」

それでも、典型的なロッカーという条件を満たさない人々に対して過去に同社が不親切な接客を行ってきたという非難もある。ギターセンターの店舗の多くは密集していて狭く、広々としたショッピングモールに慣れている一部の客層に対して無礼な印象を与えてきた。その一部の客層である女性は今、初心者ギタリスト市場の半分を占めている。ギターセンターはカスタマーサービスの改善に意欲的に取り組む姿勢を見せている。コールセンターのサポートスタッフを急増させ、ハリウッド店にならってよりフレンドリーなスタッフの育成にも励んでいる。「目標を達成したとはまだ言えませんが、これまでの私たちの状況からは大きな進歩です」。ジャピンガが言った。「これまでは、プロでもなければ楽器店には行きませんでした。今は、音楽という旅の最中にいるすべての人の役に立ちたいと思っています」

楽器業界全体の売上は落ち込んでいる

米国における製造と小売業界を対象とするIBISWorld社の調査によると、ギターセンターは現在、楽器市場において34.8パーセントのシェアを占めている。それに対し、楽器業界はこの5年間において全般的に「調子はずれ」であるとされ、その収入は毎年3.7パーセントずつ落ち込んできた。「進むデジタル化によって人々がレジャーやスポーツに使う時間が減り、消費者が商品やサービスから離れた」とIBISWorld社の研究員が2018年に発表した最新の報告書に記した。「業界大手であるギターセンターを除く、ほとんどの楽器店が家族経営の独立型のローカル店舗や地方を拠点にしているため、楽器業界は全体的に極めて分断された業界である」

このように分裂化した状況をチャンスととらえることは可能だ。ギターセンターのCMOジーニー・ダダリオは、音楽に興味を持ってもらうためには、どんな方法も試したいと言う。その例が、「第二の人生」を楽しむシニア層を対象とした音楽教室、女性専用の音楽教室、需要の有無によって検討されるプロ向けのエンターテイメント・マーケティングのクラスなどだ。「相互作用的なチャンスを拡大することに力を入れ、私たちのサービスやサポートに頼ってもらえるようなシステムを目指しています」とダダリオは言った。

それでも、同社を悩ませているより厄介な問題が、ニュースで少なからず懐疑主義の対象となっている楽器との関連性にある。伝統的なロックンロールが音楽チャートから姿を消すなか、ヘンドリクス級に崇められるギタリストの時代も終わりを告げたことでエレキギター人気が消滅するだろうという憶測も飛んできた。しかし、現実は違う。実際、ギターメーカーはこの5年間で伸びている。ギターセンターの上空には暗雲が残っているが、だからこそ他の楽器を大々的にプロモーションし、ロック以外の音楽に興味を持っている人々のニーズにも応えようとしている(リニューアルオープンでのパークのライブはその好例だ)。

「私たちは様々な方法で変化を遂げてきましたが、まだ会社を前進させる最初の段階にいます」。ジャピンガが言った。キーワードは「最初の段階」だ。IBISWorld社のアナリスト、ダニエル・クックは「ギターセンターは、今後5年そこそこに返済しなければいけない負債を抱えているため、拡大計画は危険です」とローリングストーン誌に語った。それでも、近年の借り換えによって「新店舗をオープンするための余裕」ができ、実店舗と実体験に重点を置いた戦略とオンラインマーケティングが功を呈しているようだ。消費者トレンドが急速に変化し、音楽技術が絶えず進化を遂げるストリーミング主体の現代におけるギターセンターの次の挑戦は、常に改装を繰り返すのではなく、いかにして業界をリードできるかにある。

Translated by Shoko Natori

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