オピオイド危機、米国食品医薬品局(FDA)承認の新薬登場でさらに悪化か?

サフェンタニールの10倍強力なDsuviaがFDAで承認。新薬が誤った人々の手に渡るのを懸念する声も。写真は使い切り容器に入ったDsuvia(Photo by AcelRx)

米国食品医薬品局(FDA)は、物議をかもしている新形状の強力合成鎮静剤サフェンタニールを、成人患者の激痛抑制の用途で承認した。ちょうど数週間前に諮問委員会の委員長が、新薬の承認は「薬物の流用、乱用につながり、死に至る場合もある」と警告したばかりだった。

サフェンタニールは1980年以降点滴の形で使用されていたが、製薬会社AcelRxは舌下服用タイプのタブレットを開発。Dsuviaと名付けられたその新薬は、「1回の服用量を容器に収納して」販売される。効力はフェンタニールの10倍、モルヒネの500~1000倍。病院や施術センター、緊急病棟といった医療現場での使用に限定され、薬局では入手不可。自宅での使用も禁じられる。にもかかわらず、異を唱える人々は、既に深刻化しているオピオイドの問題が新薬によって加速するのでは、と懸念している。昨年だけでオピオイドの過剰摂取による死亡者は4万人を超える。

10月12日、FDAの諮問委員会はDsuviaの評価査定を行い、賛成10票、反対3票で新薬を承認した。11月2日に最終承認された後、FDAの諮問委員会の委員長を務めるスコット・ゴットリーブ博士は声明を発表して今回の決定を擁護。薬物の用途を限定し、「薬物の誤用・乱用防止を促す」対策が講じられていると、強調した。

AcelRxの取締役ヴィンス・アンゴッティ氏が発言した内容によれば、同社のリスク評価および危機軽減戦略には、卸流通データの監査も含まれる。また、病院やその他医療提供者を査定して薬物の適切な管理を徹底し、流用や乱用を常時監視すると言う。

FDAの麻酔薬および鎮痛薬製品諮問委員会(AADPAC)の会長をつとめるレイフォード・ブラウン博士は、先約のため10月の会議に出席して票を投じることができなかったが、消費者支援団体Public Citizenの指導部らとの共同署名による書面を当局の上層部に送付し、強い口調でDsuviaの承認却下を訴えたという。ブラウン博士は、はたして当局は「(Dsuviaが)厳重に規制された環境下に限定して」「ラベルの指示通りに使用される」ように取り締まることができるのか、強い疑念を表明した。

ブラウン博士によれば、これまでFDAはいかなる種類のオピオイドに関しても、こうした規制実施に非力だったと言う。「現状、啓発プランも規制プランもまったくない」状態なので、Dsuviaの規制に対する姿勢もこれまでと何ら変わりないだろう。

「私が見てきた限り、ひとたびオピオイド混合物がFDAの承認を受けてしまえば、処方されるのがどんな人々か、流通後どのような手順で処方されるのか、もしくは一般市民に薬物がどんな危険を及ぼすのか、継続的な分析を行う上での防護策がとられないのが常だ」と、ブラウン博士は書面の中で述べている。

ケンタッキー大学で麻酔学を教えるブラウン博士は、点滴タイプのサフェンタニールも十分強力であるため、「薬物常用者は最初の服用で死に至ることもある」とし、どのような形状であれ、少量の服用でも流用や乱用を引き起こしかねないと警告した。ブラウン博士はまた、10月の会議にFDAの医薬安全およびリスク管理諮問委員会(DSRMAC)のメンバーが一人も出席していなかったことに疑問を呈し、このことで「FDA承認の確率が高くなった」と示唆した。

ローリングストーン誌がFDAにコメントを求めたところ、その場で返答はもらえなかった。だが広報担当者がニューヨーク・タイムズ紙に語ったところでは、「委員会には薬物の安全性・危険性の専門家が複数名在籍しており、今回の承認手続きでも、彼らの専門的見地が尊重された」と言うことだ。

Dsuviaは来年初旬に、一般流通される予定。

Translated by Akiko Kato

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