トランプ大統領が「不正投票」の証拠探しに必死になる理由

2018年11月6日、ニューヨーク州アッパー・ウエスト・サイドの投票所の様子(Photo by Michael Brochstein/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

2016年の大統領選挙では、ドナルド・トランプの得票数よりも300万人を超えるアメリカ人がヒラリー・クリントンに投票した。この事実はトランプ大統領にとってずっと疼く傷となっており、選挙がクリントン陣営に有利に働いたと主張することでこの数字の食い違いを正当化してきた。

つまり、海外のハッカーたちがヒラリー・クリントンをホワイトハウスに入れようと画策し、アメリカ国内の至るところで大規模な不正投票が行われたとしたのである。「地滑り的に選挙人団の得票数で勝ったことに加え、不正投票を行った何万人もの投票を差し引いた有権者投票でも私が勝った」と、大統領選に勝利した数週間後にトランプはツイートした。

この不正投票の証拠は一切ない。しかし、トランプは必死に証拠を探した。2017年、トランプは不正投票疑惑を調査する委員会を招集した。有権者抑圧に長けたカンザス州知事候補クリス・コーバックが陣頭指揮を取ったにもかかわらず、大々的な不正投票の証拠を一つも発見できないまま、1月にこの委員会は解散することになった。データ不足が甚だしかろうが、トランプは自分が考えたことを本当だと信じる。そして中間選挙を控えた何週間も前から、幾つもの脅威的な警告を繰り返してきた。

・2018年10月21日のツイートより
すべての政府機関と法執行機関が不正投票に目を光らせていて、それには期日前投票も含まれる。不正をするなら危険を覚悟で行ってくれ。違反者には最高刑が待っている、民事でも、刑事でも! 
ドナルド・J・トランプ(@realDonaldTrump)

・ 2018年11月5日のツイートより
火曜日の投票(または期日前投票)では不正投票に目を光らせるよう法執行機関へは通達済みだ。違法行為が見つかった者は法で定められている刑事処分の最高刑を科す。ありがとう!
ドナルド・J・トランプ(@realDonaldTrump)

今週の記者会見で不正投票の証拠を求められたトランプは、記者たちに自分の言葉を信じるようにと告げた。「調べればいいだけだ。周囲を見回して、過去に何が起きたかを確認すれば、自ずと見えてくるはずだ」と大統領は言い、「私の意見は証拠に基づいている」と続けたのである。

そんな証拠は一切ない。不正投票の証拠を見つけるためにトランプが特別に委任した委員会ですら、政権を揺るがすような証拠を見つけることはできなかった。また、この問題に対するどのような法的な調査でも、不正投票が実行されるのは非常に稀だという結果が出ている。ロサンゼルスのロヨラ・ロー・スール教授で前司法省当局者のジャスティン・レヴィットがNBCニュースに語ったところによると、同教授が発見した2000年から2018年のなりすまし投票の総数はたった45だった。その間の投票総数は何十億にものぼるというのに。

また、2016年の大統領選後の数週間で発覚した不正投票は4ケースだけと、当時ワシントン・ポスト紙も報じていた。これは2度重複して投票を行ったのが2人、死んだ夫に投票した女性が1人、投票箱を開けさせるために市長候補の名前を書いた不在投票用紙を濡らすために雇われた女性が1人で、この女性は逮捕された。1億3500万人分の4人である。確かにこれ以外にも不正投票が行われた可能性がゼロとは言えないが、大統領選でのトランプとクリントンの獲得票数の差に偽りはなく、トランプを陥れようと違法に画策されたものではないと言える。残念なことに、違法だと喧伝するトランプのエゴを満足させる有力な証拠は一切ないのだ。

Translated by Miki Nakayama

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