カルトホラーの金字塔、オリジナル版『サスペリア』を振り返る

1977年のダリオ・アルジェント版オリジナル『サスペリア』。写真左がジェシカ・ハーパー。(Photo by Reporters Associati & Archivi\Mondadori Portfolio via Getty Images)

ホラー映画の熱狂的ファンは、1977年のダリオ・アルジェント監督の最高傑作『サスペリア』をイタリアン・ホラーの聖典と呼ぶ。日本では2019年1月公開のルカ・グァダニーノ監督によるリメイク版が注目を集めるなか、あらためてオリジナル版の魅力に迫ってみよう。

『サスペリア』の前にもアルジェント監督は、『喜びの毒牙』(1970年)や『サスペリア PART2(原題:Profondo Rosso)』(1975年)という最高のカルト映画を作っていた。しかし『サスペリア』はそれまでの彼の映画とは違った。

この作品はスタイリッシュで、シュールで、見事なまでに倒錯した悪夢で、超現実的と言える。ある評論家の言葉を借りれば「ルイス・キャロル・ミーツ・カリガリ博士」だ。巨額の製作費を投じて作った映画にはもっと恐怖を煽る作品があるだろうが、この『サスペリア』は常にトップ10にランクインする強力な作品だ。そして、これは歴代のホラー映画の中で最も肉体的な感覚を刺激する作品として他の追随を許さない。すべて明るい色彩で触れられそうなテクスチャー、パニックを誘発する強調された暴力。ある編集長が私にこう言ったことがあった。「人間には本物の『この世の地獄』がどんなものか想像すらできない」のだから『この世の地獄』という言い方は適切ではない」と。しかし、『サスペリア』は「この世の地獄」というイメージを具現化したものと言えるのではないだろうか

評論家メイトランド・マクドナ著『Broken Mirrors/Broken Minds: The Dark Dreams of Dario Argento(原題)』によると、アルジェント監督はアメリカの映画製作会社からハワード・フィリップ・ラヴクラフト原作作品の映画化を持ちかけられていたという。しかし、彼らが作りたいものも、彼が作りたいものも、お互いに理解できなかったため、アルジェントの意識は次第に黒魔術の魔女や不快な容姿の老婦人に向かったのである。アルジェントは超自然的なテーマの作品を作るという考えは気に入っていたし、白雪姫と7人の小人の延長線上にあるストーリーを想定していた。もともとのアイデアは小学校を舞台にしたストーリーだったと彼自身が述べている。「そこでは魔女が先生で、子どもたちを折檻する」と。「みんな、『ああ、あなたってあの映画では白雪姫みたいな存在なのね』と言うの」と、主演のジェシカ・ハーパーも言っていた。

映画のクライマックスに到達する頃には、観客はゴブリンの音楽に十分に煽られながら(ライターのデヴィッド・キャラットはオープニングのメロディが童謡に似ていると指摘しているが、これもおとぎ話的なモチーフの一つと言えるだろう)、ハーパーがあらゆる意地悪と対決し、すべてが崩壊する様を目撃する。そして、テクニカラーの悪夢から目覚めたかのような放心状態で取り残されるのだ。

「これは映画だから……作り物だから」と繰り返し自分に言い聞かせながら見る70年代のホラー映画と違い、『サスペリア』は、これが作り物だと一瞬たりとも忘れずに、見え透いた架空の世界を享楽する作品だ。何度も見てしまう実体験のような悪い夢で、何度見ても予期しなかった狼狽を与える。



Translated by Miki Nakayama

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