デビュー10周年を迎えたザ・ティン・ティンズ、オフィシャル・インタビューが到着

ザ・ティン・ティンズのケイティー・ホワイト(右)とジュールス・デ・マルティノー(左)

10月26日に、4年ぶりのニュー・アルバム『ザ・ブラック・ライト』をリリースしたザ・ティン・ティンズ。デビューから10周年の軌跡を追ったオフィシャル・インタビュー全文が公開となった。

新作『ザ・ブラック・ライト』では、これまでのカラフルでポップな印象とは全く異なり、アルバムのジャケット写真含めてビジュアルはすべてモノクロで統一。公開されたシングルのMVもミニマムでパンクな印象が強く、デビュー当時とはすべてが一変した印象だ。派手な色味を大胆に起用してきた彼らがデビュー10周年を迎えどのような心境の変化があったのか。また、青空が広がるアメリカ・ロサンゼルスでレコーディングされたアルバムがどうしてここまでモダンでパンクなサウンドに至ったのか。

ケイティ・ホワイトに行った以下のインタビューでは、毎回アプローチを変えながらも、自分たち独自のオリジナリティを忘れない「新生ザ・ティン・ティンズ」の全貌に迫っている。

―今年でデビュー10周年おめでとうございます。アルバムを完成させた今は、ライブへ向けて動いているのでしょうか?

ケイティ:今ちょうどリハーサルの最中で、このあと2週間くらいかけて、ニュー・アルバム『The Black Light』をライヴでうまく演奏できるように、リハーサルに専念する予定なの。説得力があるパフォーマンスができる、準備万端な状態にしないと! 実は今回は、アルバムを作っていた時からライヴでやりたかったことがあって、それは非常にミニマルなパフォーマンス。ドラムキットではなくて、エレクトロニックなドラムにして、ギターのペダルも最低限の数に絞って、ステージ上にはあまり楽器や機材がない状態にするの。それでいて、場合によってはすごくアグレッシヴで爆発的な表現をして、その一方ではすごく抑制を効かせる―という感じね。というのも今回のアルバムに向けて曲を書いた時、私たちは詩を書くようにアプローチしたの。先に歌詞を綴って、それを音楽に乗せるという形をとって。だから今回の私は、そういう風に生まれた言葉をステージで発することになるんだけど、だからこそ説得力を持たせるのは難しくないわ。自然に勢いが出て、今にも走り出しそうなノリになるだろうから(笑)。

―古い曲もそういうミニマルなアレンジに変えるんですか?

ケイティ:まだ分からないけど、両方のスタイルをミックスすることも考えているわ。ほら、スリーフォード・モッズというバンドがいるでしょ。

―知っています。最高ですよね。

ケイティ:そうなのよ。私たちも大好きで、徹底的にミニマルでパンクでモダンで、すごく面白くて、説得力満々だと思う。で、ふたりとも彼らにすごくインスパイアされて、ああいう強烈な熱度をキープしつつ、それを楽器で表現したらどうなるだろう?って考えたのよ(注:スリーフォード・モッズはエレクトロニックなオケとヴォーカルだけでライヴを行なう)。そんなわけで、エレクトロニックな音から始まって、そこに生楽器を乗せていくというアイデアを思い付いたの。だから、前作『スーパー・クリティカル』のディスコ系の曲には向いていないだろうけど、よりアグレッシヴでパンクな曲ならフィットするかもしれない。そんなことも考えているわ。

―ファースト・アルバム『ウィ・スターテッド・ナッシング』の収録曲なら、うまくアレンジできそうですね。

ケイティ:そうね。『The Black Light』がこれまでの私たちのアルバムのどれかと似ているとしたら、それは恐らくファーストだから。

―あなたたちは毎回レコーディングに長い時間を要します。どの部分に一番手間取るんでしょう?

ケイティ:私たちは常に音楽作りをしていて、常にクリエイティヴな状態に自分たちを置いていて、色んなことを体験し、旅をしたりしているんだけど、今回も4年かかったのは……ソングライティングはそんなに難しくなかったけど、自分たちが欲しているサウンドを形にするのに手こずったのよ。というか、そもそもどんなサウンドを欲しているのか見極めるのに時間がかかった。4枚目のアルバムであり、それだけの面白さを備えていて、以前より成熟した音にしたかった。もちろん、自分たちらしさを失うことなく。そういうサウンドを目指して、まず1年半ソングライティングとレコーディングに費やしたの。で、今回はマンチェスターのバンドたちからも、すごく影響を受けたわ。つまり私たちの故郷が生んだバンドたち。ザ・スミスやストーン・ローゼズやジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダーといった面々ね。でも彼らを意識しながら曲を作っていて、ふと気付いたら、まるっきりこれらのバンドのスタイルをコピーしたような曲の数々が出来上がっていたの(笑)。それで「ああ、これじゃダメじゃない!」って反省したんだけど、曲そのものはどれも気に入っていたのね。それで気分転換も兼ねてロサンゼルスに行くことにしたのよ。そして改めてレコーディングをして、プロダクションを完全に刷新したわけ。いらない要素を全部はぎ取って、骨組みの状態に戻し、フレッシュで面白いサウンドになるまで、そして、生々しいエネルギーを感じさせるまで、アレンジし直した。棘があって、磨き上げ過ぎない感じに。もしかしたら最初のヴァージョンのほうが耳に馴染みやすくて、聴きやすかったかもしれないんだけど、とにかく今回は切実な説得力を与えることが一番重要だった。完璧さは求めていなかったのよ。スリーフォード・モッズを聴いた時にそれを感じたの。磨き上げたポップソングではないけど、彼らの曲は説得力満々で、ライヴ・パフォーマンスも然り。ふたりの男性が自分たちを表現している姿に、目が釘付けになってしまうのよ。

―確かに今回の曲には、どれも挑戦的なエッジがありますよね

ケイティ:そうね。何しろ1年半みっちり作業をして、自分たちを外の世界から切り離していたものだから、私はキャビンフィーバー(注:狭い場所で長い時間を過ごした時に生じる不安定な精神状態)になってしまったの(笑)。それで突然パニック発作に襲われるようになって、大変だったわ。思えばこれまで私たちはずっと常に移動していたわよね。私は22歳か23歳からの10年間、ずっとそんな生活を続けてきた。その間はただ慌ただしくて、立ち止まってあれこれ悩んだり、考え込んだりする余裕がなかった。そして、このアルバムを作るにあたって、初めてわりと長い時間一カ所に留まることになって、これまで溜め込んでいた葛藤やら問題やらが一気に表面に出てきたのよ。だからこそアルバムを『The Black Light』と命名したの。UVのブラックライトで何かを照らすと、普段は目に見えないものが全部さらけ出されるでしょ? それと同じ原理で、立ち止まってみたら色んなものが見えてきて、欠点だけじゃなくて、いい部分も見えるんだけど、どちらかというと自分たちの人生の色んな欠点や傷を突然突きつけられて、「うっ」って思っちゃったのよ(笑)。じゃあ、それを曲に綴ろうってことになった。ブラックライトがこのアルバムのメタファーなのよ。ブラックライトを自分たち自身に向けて、欠点をさらけ出すアルバムだから。そんなわけで、スーパー・ハッピーとは言えない作品になったわ(笑)。でもそれでいて、体を動かさずにはいられない音楽なのよね。アグレッシヴで攻撃的でありながらも、重くどんより沈み込む感じではなくて。

―ジャケットなどのヴィジュアルもブラック&ホワイトです。

ケイティ:ええ。全てイメージを統一したかったの。ステージの演出にもそれを反映させたくて、ミニマルでムーディーな雰囲気でまとめるつもり。ほかにも“shadow”っていう言葉が歌詞に出てきたりするし、シンプルなんだけど、そういう歌詞の内容に根差した、効果的な演出を考えたいと思っているわ。

―じゃあ、完成した時には一定のカタルシスを得られたんでしょうね。

ケイティ:ええ。でもこんなアルバムは二度と作りたいとは思わない。パニック発作に苦しんだあの頃を思い返すとゾっとするし、「オー・マイ・ゴッド! こんなにたくさんの問題を一気に突きつけられるなんて!」って圧倒されちゃったから。何しろ10年分の蓄積でしょ? でも結果的には、このアルバムをすごく誇りに感じているわ。やっぱり、誇りに感じられる作品を作りたかったのよね。4枚目ともなると、「適当にめっちゃキャッチーな曲でも書くか」なんてことにはならない。とにかくソングライターとして自分たちが手応えを得られる、いい曲を書きたかったの。

―そして今回もまた大きくサウンドが変わりました。マンチェスターのバンドの名前が出た通り、ポストパンク色が強いですね。毎回大胆に変わるのは、自然な成り行きなんでしょうか?

ケイティ:多分私たちがデュオだってことにも、関係していると思うのよね。5人組のロックバンドだったりしたら、その5人のメンバーが集まった時に自然に鳴らされるサウンドが、ひとつ定番として確立されるものでしょ? だからその定番のサウンドをキープし続けるのは不思議じゃない。でもザ・ティン・ティンズの場合は私とジュールズだけだし、ふたりとも熱狂的な音楽ファンで、あらゆるタイプの音楽を聴いている。だからこれまでもずっと、少々変わり種のバンドであり続けてきたんだと思う。「彼らは〇〇なインディ・バンドだから、こんな風にメディアに打ち出して、こんな風に宣伝して、こんな風に紹介する」みたいなことができないのよ。音楽業界のシステムの中にあって、いつも少しばかり居心地が悪かったわ。でもここにきて、そういう自分たちのポジションが気に入っているの。そしてふたりしかいないからこそ、大胆に変わるのも難しくない。例えば、「ザ・スミスとザ・キュアーにハマっているから、次はこんなアルバムを作りましょ」みたいな展開もあり得る。それが5人組バンドで、ある日ベース・プレイヤーがリハーサルにやって来て、「俺、ザ・キュアーにハマってるんだけど、あの手の音を試してみようぜ」と提案しても、ほかのメンバーの合意を得られなかったりするでしょ? もちろん変化し続けることには、いい面も悪い面もある。バンドとしてマイナスに作用する場合もあるわ。でも私たちはそういうバンドであり、どうにもできないのよ。

―マンチェスターのバンドに目を向けた理由は?

ケイティ:元々彼らの大ファンで、何しろマンチェスター出身だし、マンチェスターの人間はみんな、町の音楽の歴史にすごく誇りを感じているの。町を歩いていれば、バーやブティックを始めそこら中で、地元のバンドの曲を耳にするわ。で、私たちが今回こんなに惹かれたのは、正直言って、ずっと旅を続けていてホームシックになったからだと思うのよね。彼らの曲を聴くことで、故郷を思い出していたのよ。何年もマンチェスターには戻っていなかったから。

―じゃあ今の拠点はマンチェスターではないんですね。

ケイティ:ええ。ロンドンにいるわ。中心部から20分くらいの場所だけど。ただ、この先どれくらいここにいるか分からない。いつも移動し続けているから(笑)。それも私たちの特徴で、素晴らしいことなんだけど、10年間そういう生活を続けていると、しっぺ返しが待っているってわけ!

Rolling Stone Japan 編集部

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