MØが語るディプロとチャーリーXCX、“ネバーランド”で見つけた故郷との絆

ーアルバムの話に戻りますが、先ほど一貫性という話が出た通り、『フォーエバー・ネバーランド』はすごくアルバムらしいアルバムですよね。そもそもどんなヴィジョンに則って作ったアルバムなんでしょう?

MØ:まずポップ・アルバムにしたかった。一貫性のあるポップ・アルバムね。でもそれと同時に、パンクにルーツを持つ人間として、パーソナルな作品にすることも重要だったわ。そしてエッジがあって、ゴリゴリしたリアルさがある作品ね。あとは、何かひとつのことに偏ったアルバムではなくて、音楽的にもひとりの人間としても、私の様々な面を見せたかった。そんなわけで、パーソナルで、ひとつの旅みたいなアルバムを目指していたわ。ポップなんだけどエッジがあって、ダークな部分も含んでいて。

ーじゃあ歌詞は全て実体験に根差していると思っていい?

MØ:そうね。実体験だったり、記憶だったり、フィーリングだったり……。あと、中にはその曲を書いた時に感じていたことを素直に記録している歌詞もあるわ。その日何かが起きて、たまたま抱いていたフィーリングを。と同時に、過去を振り返って思い出している歌詞もあるし、とにかく全てパーソナルなのよ。



ーカリフォルニアや西海岸に言及する曲が多数含まれていますよね。

MØ:確かにそうね。というのも、このアルバムは、ヨーロッパとLAの間を行き来する生活を送っていたという事実に、大きな影響を受けているの。知っていると思うけど、最近のミュージシャンの多くは、LAに長い間滞在して色んなソングライターやプロデューサーと共作したりするのが普通でしょ? 私の場合も、「リーン・オン」があんな風に世界的な大ヒットになってからというもの、「君もLAに行って音楽を作るべきだ」と大勢の人に言われた。そうするのが当たり前だとみんな考えているのよ。だからそれを試してみたの。最初はすごく怖かったわ。ほら、私はそんな風に日々知らない人と会って、曲を一緒に書くというようなセッションには慣れていなかったから。それまでの私にとってソングライティングはすごく私的な作業で、ソングライターとしては非常に内向的なタイプだった。だから全く新しい体験だったのよ。

それにLAってしばしば、外の世界から切り離されていて独自に完結している町だと、言われたりするわよね。俳優やミュージシャンの卵があちこちから集まっていて、毎日晴天で……。そういうLAを私は、一種の“ネバーランド”という風に解釈したのよ。だからタイトルを『フォーエバー・ネバーランド』にしたわけ。つまり、『ピーター・パン』に登場するネバーランド、そこで暮らす人は永遠に年を取らないネバーランドね。そういう若々しいエネルギーに溢れた町だから。それってすごく美しいアイデアではあるんだけど、同時に当時の私は、そういう隔絶した世界に吸い込まれてしまうのがすごく怖かった。なぜって私はLAにいても、自分のクリエイティヴィティの核の部分を維持したかったの。ミュージシャンなら誰もがLAに行って、決まったやり方で音楽を作っていたけど、私はデンマーク人であり、それまで独自のやり方で音楽を作っていたから、アーティストとしての自分の出自に背を向けたくなかった。自分の出自に正直であることが重要だと思った。そんなわけで、LAと故郷を行き来しながらの生活を通じて私は色々学んで、こうして歌詞にも反映されているのよ。

ーそういう意味で「Nostalgia」みたいな曲は、まさに自分の出自との絆を維持するために書いた曲だったりするんでしょうか? PVも故郷で撮影していましたよね。

MØ:ええ。ほかにも、無意識のうちにそうしていた曲があるわ。アルバムの収録曲はほとんどLAで書いたから、私はずっと故郷から遠く離れた場所にいた。そのせいで、常にデンマークにある過去を振り返りたいという欲求を抱いていて、自分のこれまでの人生や子供時代とコネクションを保っていなければという必要性をひしひしと感じていたの。すごく不思議な感覚なんだけど。あともうひとつ言えるのは、私は30歳になったばかりで、つまり20代後半になってから色んな体験をして、そして30歳の誕生日を目前にしてこれらの曲を書いた。人間ってみんなそうなんだろうけど、20歳とか30歳とかキリのいい年齢に差し掛かると、一旦立ち止まって、自分が歩んできた道を振り返ったりするものよね。私の場合もまさに典型的なケースで、このアルバムでそれを実践したのよ。



ーまた、今回はほぼ全曲でプロデューサーのSTINTとコラボしていますね。なぜ彼を選んだんですか?

MØ:彼とコラボを始めたのは、2017年も終わりに近付いた頃だったわ。私はファーストを作り終えてから、「リーン・オン」以降の慌ただしい時期も含めてずっと、セカンド・アルバムのエグゼクティヴ・プロデューサーを務めてくれる人、色んなことを任せて、私のパートナーになってくれる人を探し求めていたの。アルバムを作る際に最も重要なことと言えばソングライティングであり、いい曲をたくさん用意することよね。でも、それにも劣らずに重要なのは、これらの曲にサウンドを与えてまとめ上げて、一本の流れを作り出せる人、色んな意見をやり取りできる人を見つけることだと思うの。で、2017年の夏だったと思うけど、ラジオでとある曲(ジェイコブ・バンクスの曲「Chainsmoking」)を聴いた時にすぐにピンと来て、「私が組むべきプロデューサーはこの音を作った人だ」と確信したの。そうしたら、まさにその曲をプロデュースした人と、すでに過去にコラボ経験があったことに気付いたのよ。そこで早速連絡して一緒に作業を始めて、彼はアルバムを完成させるにあたって本当に重要な役割を果たしてくれた。心から感謝しているわ。



ーサウンドの方向性についてはどんな話し合いをしたんですか? このアルバムはダンスホールから王道のバラードまで多様なスタイルを網羅していますよね。

MØ:そうね。例えばバラードって私は基本的に大好きだし、スローで、よりエモーショナルな曲をふたつくらい用意しなくちゃと思っていたの。その一方で、聴いてもらえば分かるかもしれないけど、リズムの面ではドレイクの作品に影響されずにいられなかった。あと、ジェイミー・エックス・エックスやSZAにもインスパイアされたっけ。だから、プロダクションに関しては色んな話をしながら進めたわ。でも時には、スタジオにいる時に、その場の雰囲気で自然に生まれたサウンドもある。そういう時は、昔から持っている影響源が自然に現れたりするのよ。

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