ミネソタ出身ギターの神童トーマス・アバン、その素顔に迫る

ミネソタ出身の天才ギタリスト・トーマス・アバン(Photo by Ebru Yildiz)

本年度最も印象的なデビューアルバムのひとつを発表したミネソタ出身の天才ギタリスト・トーマス・アバン、その素顔に迫る。

ウェールズで生まれ育ったトーマス・アバンは、12歳の頃にミネアポリスへと移った。その頃から彼は、3〜4年ほど前から弾き始めたギターにますますのめり込むようになった。彼は特にブルースに傾倒していたが(テキサスの街角でゴスペルを熱唱し、ナイフでギターの弦を弾きながら死者の魂に語りかけた伝説のブルースマン、ブラインド・ウィリー・ジョンソンをヒーローと崇めている)、高度なテクニックよりもリアルなフィーリングにこだわった。17歳の頃、彼はミネアポリスにあるカフェで3時間というロングセットを定期的にこなしていたが、それは自身に課した訓練でもあったという。フォーク、プログレ、メタル、神秘主義といった要素が混ざり合った、自身の頭の中に存在する未知の音楽を形にすべく、彼は日々試行錯誤を続けていた。

先日リリースされたデビューアルバム『A Sheik’s Legacy』で、彼はひとつの答えを示してみせた。透明感と曖昧さを同居させた音楽性と、新たな音楽言語を生み出そうとするかのような無謀ともとれるアプローチは、60年代後半のプログレ・ロックを思わせる。パワーコードに乗せたR&B調のファルセット、サイケデリックなムードを醸し出すデリケートなフィンガーピッキング、シンバルが響き渡る空間でこだまする弦楽器のピチカートなど、彼の楽曲は目まぐるしく表情を変えていく。ギター、ベース、ドラム、ピアノを含む、チェロとフルート以外の全パートを自身で担当したアバンは、ミネトンカ湖に隣接する郊外の街ディープヘイヴンにあるスタジオで、同作をセルフプロデュースによって完成させている。

今から約1年前に、若干21歳にして同作を完成させるまでの過程について、彼はうまく説明できないという。「振り返ることを意図的に避けてるんだ」ほぼ独力で進めたレコーディングについて、彼はそう話す。「作品を完成させた時点で、そのステップは終わりにしたいからね」事前にはっきりとイメージできていた曲もあれば、スケッチの段階から手探りで形にしていったものもあったというが、ドラムパターンを元にしたものを除けば、ギターと歌を同時に録ったものに肉付けしていくケースが大半だったという。「得意なやり方を自覚したくないんだ。自分でも予想がつかない方向に持っていきたいからね」彼はそう話す。「常に白紙の状態からスタートできるようにしておきたいんだ」

『A Sheik’s Legacy』のリリースと同時に公開されたモノクロ映像で見ることができる、彼の腕と胸に刻まれたシンボル(➗や?を含む)についても、彼は多くを語ろうとしない。同映像で彼は、ホルスの目を思わせるアートワーク(自身の右目の下に見られるタトゥーとも類似)をバックに、堂々たるソロパフォーマンスを披露している。「あれもいつ頃から使い始めたのか、まるで思い出せないんだ」彼はそう話す。

Translated by Masaaki Yoshida

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