名優トム・ハンクスの演技論:さっきやったことはもうやらない「自由さ」

トム・ハンクス、2017年1月2日撮影。(Featureflash Photo Agency / Shutterstock)

トム・ハンクスが語った「集中力をコントロールする方法」「役者として大切にしていること」......。作家ギャヴィン・エドワーズの新著『The World According to Tom Hanks: The Life, the Obsessions, the Good Deeds of America’s Most Decent Guy(原題)』は、俳優トム・ハンクスの軌跡を綴った一冊だ。今回はその中から引用した記事をお届けする。

トム・ハンクスが選択した仕事は、言わずもがな、演ずることだ。彼が演技するようになったきっかけはこうだ。自家用車で家族と旅行中の幼いトムは鳥の鳴き声を聞く。するとシェイクスピア劇を演じる俳優のような言葉遣いと口調で「聞こえるぞ、ナゲキバトのさえずりが」と言って、鳥の鳴き声を聞いたことを家族に教える。家族が笑うのを期待するトムの耳にみんなの笑い声が届く。そして、それ以降、車中では「聞こえるぞ〜」シリーズが続くのだ。「聞こえるぞ、牛の声」や「聞こえるぞ、トイレに行きたいボクの声が」などなど。家族にとってラッキーなことは、彼が徐々に新しいネタを増やしていったことだ。

是が非でもオチを見つけようとするハンクスの生意気な気質は高校時代も発揮され、それがシットコム出演という仕事に結びついた。演劇トレーニングを好むようになると、ハンクスは徐々にお笑いの欲望を抑えるようになった。しかし、教室の後ろで悪ふざけする人気者という気質が完全に消え去ることはなかった。それこそが、ハンクスが世界中でトークショーのゲストとして最も求められる理由であり、1985年から2016年までにサタデー・ナイト・ライブの番組ホストを9回も務めた理由であり(彼は最多出演ホストとしては歴代第5位)、最低なオリンピックのスケート選手から短い時間しか記憶できないミスター・ショート・ターム・メモリーまで、様々なキャラクターを完璧に自分のものにしてしまう理由なのだ。エアロスミスのローディーを演じたとき、これ以上無いという緊張状態でマイクを調節し、「シビランス(甲高い歯擦音のこと)」という一言で笑いを誘った。

1989年、映画『ジョー、満月の島へ行く』のあと、ハンクスはコメディ作品へのアプローチの仕方を聞かれた。「無分別にやっている。笑いは放っておいても何とかなるからね」と、彼は答えたのだ。自分の姿勢は熟練の専門家が持つ自信よりも大胆だと説明した。これは、みんなが自分の仕事をしっかりとやれば喜劇部分が浮き上がってくるという、彼の信念が基になっている。「俳優がしっかり演じることが大前提で、そのあとは成り行きに任せるんだ」と彼。「そして俳優としての仕事を完遂しないとダメだ。つまり、世界に足を踏み出して、社会で起きていることを反映し、見る人たちが理解できる生きたキャラクターにする。私は自分をコメディアンである前に俳優だと思っている。しかし、自分が面白いことも、出演する映画はコメディ作品が多いことも理解しているよ」

Translated by Miki Nakayama

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