R&B界における最重要プロデューサー、その歩みと静かなる情熱

「俺が音楽業界に足を踏み入れた当時、プロデュース業は肉体労働も同然だった」と語るウォーレン・”オーク”・フェルダー(Photo by Rolling Stone)


彼らの生み出すトラックは、必ずしも現在のトレンドを反映していない。いかにもモダンなドラムパターンから、数年前にアトランタのラップシーンで流行った『キル・ビル』のサンプルまで、オークは常にシーンのトレンドに敏感に反応してきた。しかし「グッド・キッサー」や「ホエアズ・ザ・ファン・イン・フォーエヴァー」でのしなやかなベースラインに顕著なように、ポップ&オーク名義ではファンクへの情熱を堂々と表現してみせる。ヴィンテージ感を漂わせる彼らのサウンドは、伝統的なソウルにこだわるリバイバル系アクトのレトロ指向とは一線を画している。

ラップのトレンドに同調する形で、ミニマルなビートとヘヴィなベースが基本となっていた当時のR&B界において、オークのプロダクションのユニークさは際立っていた。一方でポップ&オークとしては、より伝統的なスタイルを追求しながら商業的成功を収めてみせた。「グッド・キッサー」はラジオでチャートのトップを飾り、「V.S.O.P.」はK・ミシェルをスターの座に押し上げ、「ヒア」はクロスオーバーの分野でトップ10入りを果たした。

オークのプロダクションにおける豊かなダイナミクスとリッチなメロディーは、彼が信条とするシンプルさとは相容れないように思えるかもしれない。しかし彼が手がける、「歌えるラッパー」というコンセプトに幼い頃から慣れ親しんできた若きシンガーたちは、アドリブを効かせたテクニカルなヴォーカルやハーモニーよりも、ストレートなコミュニケーションを重視する。「こんなことを言うとディスられるのは分かってるんだけど、昔主流だった存在感たっぷりのヴォーカルって、ちょっとうざったく感じることがあるんだよ」オークはそう話す。「レコーディングの現場で、プロデューサーがシンガーに『もっと感情を込めろ!自分の思いをはっきりと表現するんだ!』なんて命令してる場面にはよく出くわすよ。でも俺は感情を込めるってことが、アグレッシブに歌うことだとは思ってないんだ」

ケラーニ、アレッシア・カーラ、アリーナ・バラス等、彼が手がけたシンガーたちのスタイルは、オークのそういった感覚を反映している。パワーよりもトーンを重視する彼女たちは、感情を表現する上でリッチなメロディや大胆なアドリブに頼ろうとしない。ケラーニのヴォーカルには、まるでリスナーと何気ない会話を交わしているかのような親密さがある(「あなたがツアーに出てる間、私も世界中を飛び回ってた / やっと会えたと思ったらまた離れ離れ、その繰り返し / そういうものだってみんな知ってる あなたのプライドの高さも / 認めればいいのよ 独りでいるのは嫌だって」)。「今はルーツに立ち返ろうとする動きが盛んになってる」オークはそう話す。「今のアーティストたちは、リアルであることを何よりも重視しているんだ」(バラスは今年前半、オークのプロダクションについてこう述べている。「彼はヴォーカリストの力を引き出す術を熟知してる」)

オークがいう「リセット」とは、あるジャンルがポップカルチャーの一部であり続けるために選択する手段なのだろう。その証拠に、彼の主戦場であるR&Bとヒップホップは、過去数年でリスナーの数を飛躍的に伸ばしている。2017年前半には、両ジャンルを組み合わせた市場がアメリカの音楽業界において最大となり、その成長は今なお続いている。今年最大のR&Bヒットとなったエラ・マイの「ブード・アップ」が、2006年にメアリー・J・ブライジが残したラジオでの再生回数記録を更新したことは、R&Bというジャンルが完全復活を遂げつつあることを示している。

そういった状況の訪れを予想していたオークは、プロデューサーとして多忙を極めている。彼は現在、アレッシア・カーラとケラーニの新作に取り組んでいるという。「R&Bのルネッサンスが到来する、俺はそう確信してるんだ」彼はそう話す。「俺たちはその最前線にいる。そして向かう先は、俺の出発点でもあるんだよ」

Translated by Masaaki Yoshida

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