R&B界における最重要プロデューサー、その歩みと静かなる情熱

「俺が音楽業界に足を踏み入れた当時、プロデュース業は肉体労働も同然だった」と語るウォーレン・”オーク”・フェルダー(Photo by Rolling Stone)


音楽業界のエキスパートたちによると、違法ダウンロードの横行によって最も大きな被害を受けたのは、ラップとR&Bのアーティストたちだったという。「Top40の曲がiTunesでセールスを伸ばす一方で、アーバン系の曲はファイル共有ソフトの格好のターゲットとなっていた」過去にメジャーレーベルでPRを担当していたある人物はそう語った。中でもR&Bは、ラップ以上に深刻な状況に追い込まれていった。「R&Bは売れないっていう認識が定着しつつあった」オークはそう話す。「レーベルにR&B系のアーティストを売り込むことに成功したとしても、ごくわずかな予算しか与えられなかった。2006〜2007年以降は、R&Bチャートでナンバーワンを取った曲でさえ、実際のセールスはたかがしれてたんだ」

オークの考えでは、音楽性の複雑化がR&Bの衰退につながったという。「才能あるシンガーたちはただ歌うだけじゃなく、飛び道具的なトリックを使ったり、トラックにものすごく凝ったアレンジを施したりしてた」彼はそう話す。「そういう極端に複雑なものは、オーディエンスを置き去りにしてしまうんだ。俺たちみたいな作り手にはアピールできたとしても、一般のリスナーにしてみれば『何コレ?』って感じなんだよ」(プロデューサー兼ソングライターのトリッキー・スチュアートは、過去に同様の発言をしている。90年代におけるヴォーカルスタイルの過剰な追及ぶりについて、彼はこう語っている。「ボーイズ・Ⅱ・メンのワンヤがすごい高音で歌ったとする。するとケー・シー&ジョジョやシスコが『もっと高い音を出してやる』ってな具合で応戦するんだ」)

当時のR&Bに対する一般リスナーのそういった反応は、歌を得意としないラッパーたちによるシンプルで歌いやすいメロディーが支持されるという二次現象を生み出した。「歌唱力は限られていても、ラッパーたちの素直でソウルフルな歌はリスナーに届いた。彼らは『誰それのあの曲ぐらい複雑なコードを奏でよう』とか『あのフックではいくつ音が重ねられている』なんて考えなかったからね」オークはそう話す。歌うラッパーというコンセプトは、2008年のドレイクの大ブレイクによって確立された。その一方で、歌唱力で勝負する従来のシンガーは逆境に立たされることとなった。

オークによると、こういった要因の全てがR&Bというジャンルにとって向かい風となっていたという。事実、過去10年間で大きな成功を収めたR&Bシンガーはほとんどいない。「王道のR&Bにこだわり続け、結果的にキャリアを諦めてしまったやつらを、俺はたくさん知ってる。歌で家族を養っていけなくなったからだ」オークはそう話す。「今じゃUberのドライバーなんかをやってるやつもいる」

そういった逆境を、オークは複数のポップ系ヒットを生んで乗り切った。「俺はEDMのルーツはR&Bだと思ってるけど、そう口にするたびに笑われたもんさ」彼はそう話す。「トランスっぽいオマリオンの「アイス・ボックス」(ティンバランドとの共同プロデュース)は、R&Bのイメージを一変させた画期的なトラックだった。エレクトロニックなダンスミュージックの要素を大々的に取り入れたR&Bなんて、誰も聴いたことがなかったからね。EDMが流行り始めた時は、そういうサウンドがカムバックしつつあるんだなと思った。その勢いが増していく中で、俺は昔好きだったテクノのレコードなんかの影響を曲に反映させるようになった」(ヨーロッパのダンスミュージック市場はアメリカよりも遥かに大きい)そうして彼が生み出したトラックは、ジェニファー・ロペスやブリトニー・スピアーズに見初められることになる。

オークが若きプロデューサー、アンドリュー・”ポップ”・ワンゼルと出会ったのはこの頃だった。プロデューサー兼マルチ奏者としてソウル畑で活躍し、70年代にフィラデルフィア・インターナショナルに作品を残したデクスター・ワンゼルを父親に持つ彼は、オークにR&Bの魅力を再発見させた。「サンプリングネタとかお気に入りのレコード屋でのホワイトラベル漁りとか、共通の話題が尽きなかったんだ」オークはそう話す。「やつと話すうちに、俺の中で眠ってたR&Bへの情熱が再燃し始めるのを感じたんだ」ニッキー・ミナージュの「ユア・ラヴ」を共作して以来、2人はコンスタントにコラボレーションを続けている。

 アニー・レノックスをサンプリングした「ユア・ラヴ」は、ポップ&オークのシグネチャーサウンドを確立した。他にもフォスター・シルバーズをサンプリングしたアッシャーの「グッド・キッサー」、スティーヴ・ミラー・バンドのネタを使ったミゲルの「ホエアズ・ザ・ファン・イン・フォーエヴァー」(オークが自身の最高傑作のひとつと自負している)、シャイ・ライツの「ザッツ・ハウ・ロング」をループさせたK・ミシェルの「V.S.O.P.」、そしてアイザック・ヘイズのクラシックからメロディを拝借したアレッシア・カーラの「ヒア」まで、サンプリングを多用する2人が生み出すトラックの数々は、過去30年のポップス史との繋がりを感じさせる。しかしサンプリングに頼らずとも、ポップ&オークはそのクラシックなタッチを自ら生み出すこともできる。タミアの「サンドウィッチ・アンド・ソーダ」における2本のベースラインとパンチの効いたオルガンを、70年代のレコードのサンプリングだと思っているリスナーは少なくないだろう。



Translated by Masaaki Yoshida

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