激痛に苦しむ患者の救いになるか? 薬物乱用の危険性は? 米国で新型オピオイドが認可

製薬会社は病院施設外で使用されることはないと主張。だが、専門家はいまだ薬物乱用の可能性を懸念。(Photo by Shutterstock)

先週、アメリカ食品医薬品局(FDA)の調査団は賛成10反対3で、オピオイド系鎮痛剤・フェンタニルの10倍も強力な鎮静効果をもつ速効型オピオイド錠剤の認可奨励を決定した。

オピオイドの過剰摂取は、50歳未満のアメリカ人の主な死因として挙げられている。2017年には、フェンタニルと合成オピオイドがらみの過剰摂取による死亡件数が一気に増加した。フェンタニルの処方は非常に規制が厳しく、近年では偽造品も多く出回っているが、ヘロインよりもはるかに強力なためきわめて危険な薬物である。そのため、服用者は自分の薬にフェンタニルが含まれているとは知らず、あるいはそこまで強い効果があるとは思わずに服用した結果、いとも簡単に過剰摂取に陥ってしまう。

Dsuviaという製品名で販売される今回の新薬は、点滴や硬膜外麻酔に使われる合成オピオイドの一種、スフェンタニルの舌下錠(舌の下、または歯ぐきと頬の間に入れて溶かして使用する薬)だ。錠剤にすることで鋭い痛みにも速く効き、たった15分で効果が表れる。使用が認められるのは医療現場のみ、医療専門家の指示のもとで投与することを前提としている。強い鎮静剤だが、飲み込む必要がないため、錠剤を飲み込むことが困難な患者に効果的であると期待され、また1回1錠なので、過剰投与の防止にも役立つ。

もちろん、正しく服用しないと死に至ることもある危険な薬物がまたひとつ世に出るからには、懸念材料もある。

「術後の患者を、過剰投与の危険から守りたいのです。ですが、決して薬物乱用があってはなりません」と語るのは、パメラ・パルマー医師。Dsuviaを製造する製薬会社AcelRx社の共同創設者で、メディカルスタッフのチーフを務める。ローリングストーン誌とのインタビューに対し、Dsuviaはパッケージや投与方法の面で、誤投薬の事故はもちろん、薬物乱用を防ぐものとして期待されているという。

「点滴液は過剰投与のミスが起きやすいですが、現在でも使われています。それしか迅速に痛みを緩和する方法がないからです」とパルマー医師。舌下錠は速効性が高い一方、1回の服用量は一錠。逆に液体モルヒネは、どれも見た目は全く同じなのに内容量がそれぞれ違う。これが薬物乱用の解決につながると言うのだ。

意図的な乱用に関していえば、入手経路は病院のみなので、外来患者でも入手可能なフェンタニルやモルヒネよりも、薬物依存に陥る危険は少ないとパルマー医師は言う。

「スフェンタニル、レミフェンタニル、アルフェンタニルなどは病院施設内でしか入手できません。外来患者が乱用する可能性はゼロに等しいでしょう」とパルマー医師。「病院の中は厳重に警備された艦船のようなもの。病院は全ての薬物の所在を管理しなくてはならないのですから」

またパルマー医師は、AcelRx社はDsuviaに対し包括的なリスク評価・リスク軽減戦略(REMS)を採用しており、乱用の可能性があった場合には薬物を追跡し、阻止することができると言う。

だが、誰もが納得したわけではない。レイフォード・E・ブラウンJr.医学博士は、ケンタッキー大学で麻酔学と小児医学を教える教授。FDA委員会の会長も務めているが、Dsuvia認可の会議には欠席していた。AcelRx社が防止対策に最善の努力を払っているにも関わらず、ブラウンJr.博士は依然として薬物乱用の危険を懸念している(委員会の決定に拘束力はないが、認可への第一歩となる)。

「スフェンタニルは非常に強力なオピオイドで、容易に流用されかねません。点滴液を調合する際に、医療従事者が依存症になるケースもありました。提唱されているREMSは、FDAは公衆の安全を守るシステムとみなしていますが、いまだ実証がなく、事前に行われた反復検査も成功というにはほど遠いものです」とブラウンJr.博士。「安全性こそが重要です」

Translated by Akiko Kato

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